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感想 『劇場版 仮面ライダービルド Be The One』はなぜ三千人のエキストラを動員したか

現在、平成仮面ライダー19作品目である『仮面ライダービルド』はクライマックスを迎えて放送中だ。
その初めての単独映画である『劇場版 仮面ライダービルド Be The One』が8月4日に公開された。

 

劇場版 仮面ライダービルド Be The One

 

テレビシリーズの主題歌『Be The One』から直接引用された今作の映画のタイトルや、大勢のエキストラと共に北九州市の協力の下行われた大規模なロケも話題になった。

ファンの期待値がかなり高かった映画で、私自身も公開日まで非常にわくわくしながら待っていた。

ということで、今回は私の鑑賞後の率直な感想を述べていきたい。 

  

『劇場版 仮面ライダービルド Be The One(ビー・ザ・ワン)』のネタバレを含みます!!

また、『仮面ライダービルド』本編及び関連する派生作品のネタバレも含みます!!

 

 

“最後の”実験

今作は『45話 希望のサイエンティスト』と『46話 誓いのビー・ザ・ワン』の間に起こった出来事を描いている。

テレビ本編との関係性が意図的に伏せられていた前作の夏映画『劇場版 仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』とは打って変わり、今作はいつの出来事なのかが事前に明かされている

 

よって、テレビ本編では『45話 希望のサイエンティスト』までに何とか映画に繋げようとする努力がみられた。

例えば、ゴールドラビットフルボトルやシルバードラゴンフルボトルを手に入れる描写はテレビ本編でされていた。

しかし、少し唐突な部分もあり、説明不足だった感じも否めない。

更には、ゴールドラビットフルボトルもシルバードラゴンフルボトルも、どっちみちクローズビルド缶に変わるのだから、無理やりテレビ本編と連動させる必要はなかった気がする。

 

また、映画の時系列ではまだエボルトは生き残っているので、"最後の"実験と銘打たれている割には「最後」という感覚はあまりなかった。

というよりかは、『仮面ライダービルド』の中の二、三話を映画化した、というイメージの方が近い。

 

ビルド殲滅計画

今作のセールスポイントは、やはり北九州市で行われた仮面ライダー史上最大級の規模で実施されたロケなのではなかろうか。

伊能知事に洗脳された国民として出演した3000人のエキストラが、ビルドを追いかけ続ける画は予告公開時から話題になっていた。

 

これまで「みんなの明日を創るために」戦ってきた戦兎が、全国民の「殲滅」対象になってしまった様は見ていて心苦しい。

だが、「仮面ライダー=戦争の兵器」であるという認識が浸透している限り、仮面ライダーの存在そのものが戦争のトラウマを思い出させるのも理解できる。

 

思い返してみれば、戦兎のポリシーはテレビ本編の初期で一度提示されていた。

戦兎 「誰かの力になれたら、心の底から嬉しくなって、クシャっとなるんだよ。俺の顔。マスクの下で見えねぇけど。見返りを期待したら、それは正義とは言わないぞ。

(『3話 正義のボーダーライン』より)

 

今作では、全国民が戦兎の敵になることで、戦兎の「見返りを期待しない正義」が揺さぶられてしまう。

それでも最終的に戦兎は、全国民に煙たがられても「ラブ&ピース」のために戦う決意を改めてできた

 

伊能「どうしてそこまでして愚かな人間共を守ろうとする!?なぜお前たちは戦う!?」

戦兎「決まってんだろ!愛と平和のためだ!俺たちがみんなの明日を創る!

 

確かに、テレビ本編でも、これまでの戦兎の正義感を何度も確認してきた。

しかし、やはり、全国民が敵になるという大きなスケールで戦兎の信念が揺さぶられても、その信念を曲げずに貫けたことには大変意味があったと感じる。

 

一方で、やはり残念なのは、テレビ本編で一般市民との交流をあまり描写できていなかったことだ。

今作ではある少年をスマッシュの攻撃から守るビルドが描かれていたが、このようにビルドが人助けをする場面がテレビ本編でももう少しあったら、全国民が敵となってしまった状況を悲観的に観られたのかもしれない

 

葛城忍の「ラブ&ピース」

戦兎の父親である葛城忍も「ラブ&ピース」のために科学者になった、という事実も今作で明かされた

葛城巧の記憶がなかった頃には忍の言葉を知る術がなかったはずなのに、何故戦兎はその時から「ラブ&ピース」と言い続けていたのであろうか?

私は、戦兎は心の底から「ラブ&ピース」を願っていたからずっと「ラブ&ピース」と言っていたのであって、父の葛城忍と同じ言葉を発していたのは偶然であると考えたい。

以下のインタビューでも犬飼貴丈さんが同様のことを述べている。

──「劇場版 仮面ライダービルド Be The One(ビー・ザ・ワン)」では、“ラブ&ピースのために戦う”という主人公・桐生戦兎の信念にまつわる秘密が明かされました。

犬飼 その真実については知らずに演じて来たんですが、脚本を読んで特に驚くことはなかったです。そもそも戦兎がラブ&ピースとうたっているときにはもう過去の記憶がなかったので、偶然というか、今回明かされることと直接関係はないと思っていて。戦兎がこの真実を頭の片隅で覚えていたという解釈もあると思いますが、もっと信念の部分に突き動かされて、戦兎はおのずとラブ&ピースと言っていたんだと思う。それが結果的に、この映画で描かれる真実とつながっていたのかなと。

武田 映画を観た人にはわかると思うけど、そういう解釈、すごくいいね。戦兎の底の部分から出てきたラブ&ピースという言葉が、知らずのうちにあの事実につながっていたんだ。

 

— 「仮面ライダービルド」「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」座談会 - 映画ナタリー 特集・インタビュー

 

記憶を消されて、石動惣一に拾われて「桐生戦兎」と名付けられた日から、戦兎はエボルトの操り人形であるかのようにヒーローとして育てられた。

だが、その中で「ラブ&ピースのために戦いたい」という想いが芽生えたことこそが、戦兎を仮面ライダーたらしめている

だからこそ、「ラブ&ピース」は父から受け継いだ考えではなく、戦兎の中で自ずと芽生えた感情であると考えた方が納得がいく。

 

だが当然、父も自分と同様に「ラブ&ピース」のために科学に没頭していた、という事実は、空っぽのヒーロー桐生戦兎にとっては救いになったに違いない。

 

そして、これまで大森敬仁氏がプロデュースしてきた作品に出てくる父親は邪悪で非道な人が多かったので私自身も身構えていたが、葛城忍が愛と平和のために科学者をやっていた父親だと知ることができて私自身もホッとした。

 

ベストマッチな二人

戦兎と龍我の関係性はテレビ本編の大きなテーマの一つになっていて、第1話から二人の関係性を「ベストマッチな二人」と称し、互いのために戦う姿を描いてきた。

そして今回の劇場版でも、二人の関係性にかなりフューチャーしている。

 

『仮面ライダービルド』のプロデューサーである大森敬仁氏曰く、劇場版ではテレビシリーズのおいしさを全部凝縮するように意識して制作しているらしいので、二人の関係性にフューチャーするのも自然だ。

篠宮:映画に「クローズビルドフォーム」が出てくるっていうのは雑誌などで明かされてますけど、「クローズビルド」は映画のためにとっておいてたフォームなんですか? それとも、テレビシリーズでも話は出たけれど、尺的に映画に、とか。

大森P:今回の映画の話が動き始めて、「ビルド」でいちばん美味しいところってなんだろうということを考えたんですね。劇場版はテレビシリーズのおいしさを全部凝縮したものだと毎回意識してやっているので、今作でいうとやっぱり戦兎と万丈の共闘であり、戦っている国がひとつになろうとしていること。そこがいちばんお客さんが見たいところかな、と思えたので、こういう展開になりました。

 

— 「僕は武藤さんと大森さんに操られてる(笑)」劇場版『仮面ライダービルド』上堀内佳寿也監督&大森敬仁Pに篠宮暁が直撃! | シネマズ by 松竹

 

戦兎と龍我の関係性の集大成、ということで今作では二人の関係性を揺さぶる出来事 (龍我が戦兎の敵になる展開) を用意したのだと思うが、正直あまり特別感がなかった印象だ

 

まず、龍我が伊能の洗脳の影響で敵側に回ってしまう、という展開には既視感を覚えた

テレビ本編でも、龍我は一度エボルトに憑依されている。

よって、劇場版で「二人の絆を揺さぶる出来事」としては少し弱く感じてしまった。

龍我が洗脳ではなく、何かしらの事情で自主的に伊能側についていたら、もう少し絶望的に思えたのかもしれない。

 

また、二人が終盤まで殆ど接触していなかったことも気になった

勿論、これまでのテレビ本編で二人の関係性が濃密に描かれてきたが、それでもやはり映画単体で見ると少し物足りなさを感じた。

映画の冒頭に、戦兎と龍我の何気ない掛け合いが見られたら、我々視聴者側も、龍我が離反した時には喪失感をもう少し感じられたかもしれない。

 

 

一方で、今作での出来事は、戦兎と龍我の絆が深まるための重要なきっかけとなっていた。

これまで多くの出来事がエボルトの計画通りだったことが明かされたが、今作では、戦兎と龍我との出会いもブラッド族の策略であったことが判明した。

だが、今の桐生戦兎を創ったのは龍我なのだから、戦兎と龍我の出会いすら仕組まれていたという事実は、戦兎にとってその事実は受け入れがたいものであったに違いない

戦兎「筋肉バカに言われたあの言葉が今の俺を創った。あいつだけじゃない。みんなの想いを受けて、俺は桐生戦兎として、正義のためにライダーシステムを使ってきたんだ!

(『27話 逆襲のヒーロー』より)

 

しかし、最終的に戦兎がそのような事実を乗り越えて、「龍我は自分の相棒である」という結論に到達できたのは大きな前進だったように感じる。

たとえ二人の出会いが仕組まれていたのだとしても、二人が共に過ごした時間は決して仕組まれたものではなく、この二人でないと「相棒」という関係性まで到達できなかっただろうと、今となっては強く思う。

 

そんな二人の関係性が第1話から成熟し、「相棒」として互いを認め合う姿を見ると、劇場の大画面で観れたのは嬉しかった

前作映画『仮面ライダー 平成ジェネレーションズFINAL』で戦兎が話していた「ラブ&ピース」を嘲笑っていた龍我も、戦兎の傍で戦い続けたことで同じく「ラブ&ピース」のために戦うようになった姿は感慨深い。

最後のシーンで戦兎と龍我がハイタッチを交わしたシーンが観られただけでも満足してしまった自分がいる。(笑)

 

 

今作は、特別感こそはなかったものの、戦兎と龍我が1年間築き上げてきた絆の集大成としてはかなり綺麗にまとめられた作品だと感じた

 

ラビット!ドラゴン!Be The One!

そして今作でも、「仮面ライダービルド クローズビルドフォーム」という劇場限定フォームが用意された。

戦兎と龍我が融合して奇跡的に変身した「二人で一人」の仮面ライダーは、まさに仮面ライダービルドが1話から描き続けてきた「ベストマッチな二人」の集大成と言っていいだろう

(クローズビルドフォームに変身した時に『仮面ライダーW』の風都を彷彿とさせるような風の音が流れたのは意図的な演出なのかな。「二人で一人」なだけに。)

「ラブ&ピース」のために戦う二人が、同じ目的を果たすために一つになって敵を倒す、という構図は、個人的にはすごい好きだ。

最高にかっこいいフォームなのにもかかわらず、戦っている際の戦兎と龍我の喋りがいつものコメディ調の掛け合いで、どこか安心した自分もいた。

戦兎と龍我の絆を売りとして押し出している映画の限定フォームとして実に相応しい。

 

葛城忍は、龍我がハザードレベル7を越えられるという可能性を信じていたため、ビルドドライバーにボトルを二本刺せるように設計したのだと判明する展開もアツい。

(正直、エボルドライバーを基に設計したのだから当然ボトルは二本刺せるでしょ、という違和感もあるが、それは気にしないことにしよう。)

クローズビルドフォームが「奇跡の変身」ではあるものの、どこか必然であったかのように感じる。

しかし、二本刺しができるように設計した理由を考慮すると、やはりクローズビルドフォームは二本のボトルで変身してほしかったところがある。

勿論、玩具の仕様の問題もあるため缶で変身する形式になってしまったのは仕方がないことなのかもしれないが。

 

また、最終的にはベルナージュの力でクローズビルド缶ができたことにも違和感を覚えてしまった

戦兎と龍我の力で何とかなってほしかったし、こういう時にこそ戦兎が天才物理学者の手腕を発揮してほしかった。

 

クローズビルド缶自体を手に入れるまでの過程には残念な部分もあったが、最終的には映画限定フォームとしては申し分のない活躍になったのではなかろうか。

 

結論

『劇場版 仮面ライダービルド Be The One』は、桐生戦兎の信念を再確認するための映画だ

その「再確認」のために、3000人のエキストラが動員され、全国民が敵になるという過去最大の試練が用意された。

 

エボルトやブラッド族によって創られたヒーローなのにもかかわらず、「ラブ&ピースのために戦う」という信念を築いてきたからこそ、正義のヒーローとして戦えている。

そして、桐生戦兎という存在が相棒である万丈龍我によって肯定されているからこそ、今でも全国民のために戦うことができている。

 

「再確認」という要素がかなり多かったので、映画ならではの特別感が感じられない部分は確かに多かった。

更には、テレビ本編でも「再確認」が何度も行われているので、少しくどいと感じてしまう意見も分からなくはない。

私も正直、既視感が多い展開で少し物足りなさを感じてしまった。

 

しかし、龍我を含めた全国民が敵に回ってしまう、という大きな試練を乗り越えた先に再確認できた戦兎の信念は、より確かなものになっていたと感じる

だからこそ、ハイタッチができるくらいにまで龍我との絆が深まったし、国民から煙たがられてでも戦い続ける姿勢にも説得力が増した

試練を乗り越えることで桐生戦兎が一人の人間として成熟していく様を、劇場の大画面で観る価値は十二分にあるのではなかろうか。

 

 

『仮面ライダービルド』のテレビ本編の物語も終盤に差し掛かっているが、今作での出来事が今後の話にどのように影響を及ぼすかが気になる。

 

 

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