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仮面ライダー・映画・音楽に関する感想と考察。

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第1章感想『仮面ライダービルド』は放送時間の変更にどう影響されたか

9月から放送開始した平成仮面ライダーシリーズ19作目『仮面ライダービルド』。

先日の放送で2017年の年内の放送は終了し、遂に第1章が幕を閉じた。

 

 

今作の大きな特徴としては、2017年10月1日の放送『危ういアイデンティティ』以降、平成仮面ライダーシリーズでは初めて放送時間が移動したことだ。

毎週日曜の午前8時開始から午前9時開始になったことにより、どのような影響があったのか?

今回はそれを考察しつつ、『仮面ライダービルド』の第1章を振り返りたい。

 

仮面ライダービルド Blu-ray COLLECTION 1

 

 

三都分断

スカイウォールの描き方

仮面ライダービルド DXパンドラパネル

仮面ライダービルド DXパンドラパネル

 

 火星で発見されたパンドラボックスが引き起こした「スカイウォールの惨劇」により、日本は「東都」「西都」「北都」の三つに分断される。

その事件でパンドラボックスの光を浴びた者は好戦的な気質へと変化させられた。

『仮面ライダービルド』の舞台は、スカイウォールの惨劇の10年後の東都。

東都政府首相の氷室泰山は三国の首相の中で唯一パンドラボックスの光を浴びていない者であるので平和を望むものの、北都や西都の首相はひっそりと軍備拡張等を行っている。

 

「壁により日本が三つに分断」というスケールの大きな設定は平成二期シリーズに入ってから初めてではなかろうか。

というか、これに近しい設定が平成仮面ライダーシリーズの本編に存在したのは、かなりSF要素の強かった『仮面ライダーカブト』のシブヤ隕石が最後ではないだろうか。

当然、テレビでこのような世界観を表現する上では予算やロケ地なども考慮せねばならない。

このような世界観をテレビ番組 (それもニチアサ) の予算の範囲内でよく頑張るな、とひたすら感心していた。 

 

フルCGで作らないといけないスカイウォールの壁自体が本編で出てくることはあまりなかったし、その辺は低い予算でやりくりしている以上仕方がない部分もあると思う。

その分、定期的に描かれる三都首相の定例会議や、日本円とは異なる貨幣、「北都/西都ゆき」のポストなどの小道具などの細かいディテールが世界観を表現するうえで存分に生きていたのではなかろうか。

 

国境の「壁」

1クールには、戦兎たちが壁を越えて北都や西都へ行く描写が二度ある。

西都へは密航船で、北都へは闇ブローカーの援助によりスカイウォールの裂け目を通って行く。

 

この辺の三都間の移動に関する描写は割と雑というか、さっぱりしていたのが印象的だ。

「えっ、北都へ行ったり西都へ行くのってそんなに簡単なんだ!」って思えてしまった。

 

そのさっぱり具合には割と引っ掛かっていたが、今作の全体像 (1クールで東都、2クール目以降で戦争突入) が見えてきたらそのさっぱり具合も何か納得してしまった。

というのも、スカイウォールはあくまでも「人vs人」の戦争を引き起こすための設定に過ぎない

――現在のハードな国際情勢のなかでは、ドラマの中での脅威をリアルが追い越すような状況もあるのではと思います。そういった中で、ヒーローが悪を倒すドラマを作る難しさ、また作品を作る意義をどのように考えておられますか。 

そうですね……『ビルド』は戦争がテーマの一つにもなっていて、でもそれこそ今描くべきことなのかもしれないという印象をもちました。そのために今までにやれなかったような、人体実験などのハードな要素も入れています。

だからといってほかの国のことを描く番組でもない。3つに割れているのは日本ですからね。日本って、国境という概念が薄い国なので、そこに国境の概念をもたせたところが今回は面白いなというところはもちろんある。あとは武藤さんの中でも、戦争がテーマなんだけど戦争を否定するというか、要は仮面ライダーってもともとショッカーという世の中を攻撃する悪から生まれているのに、その人が正義の心をもって戦う。そういうところが今回の大きな主題になっている気がします。

 

さあ、新しい「仮面ライダー」を始めようか - 東映・大森Pが語るエグゼイドとビルドの"二か年計画" (1) "トゥルー・エンディング"の試み | マイナビニュース

「国境」として機能している今作のスカイウォールは、架空の壁が存在する作品の多くが描く「越えられない壁」とは異なるアプローチで、非常に面白い設定だ。

 

戦争が始まる前の北都や西都を戦兎視点で描いたり、各都の人々の生活を描いたりする必要もあるからこそ、今作は割と早い段階から壁の向こう側を描いていたのではないだろうか。

(西都を『4話 証言はゼロになる』で、そして北都を『7話 悪魔のサイエンティスト』『8話 メモリーが語りはじめる』で描いている。)

 

第二次世界大戦後のドイツでは首都ベルリンが西側諸国 (米・英・仏) が占領した西ベルリンと、東側諸国 (ソ連) が占領した東ベルリンに分断されたが、今思うとその際に建てられたベルリンの壁とスカイウォールは性質が似ている気がする。

allabout.co.jp

ドイツではその影響で戦争に至ることはなかったが、第三者の手 (東西冷戦、パンドラボックス) によってある日突然分断されたという点では同じだ。

(代理戦争という観点から見ると、朝鮮戦争やベトナム戦争も似たような出来事であるのかもしれない。)

東ベルリンの体制に不満を持つ多くの国民たちが西ベルリンへ逃亡しようと試みたのも、『7話 悪魔のサイエンティスト』で北都の家族が東都への逃亡を図ったことと重なる。

 

また、時事ネタで言うと、米国のトランプ大統領が移民の不法侵入の取り締まりを目的にメキシコとアメリカ間の国境に建てると宣言した壁の風刺にもなっているのかもしれない。

www.newsweekjapan.jp

 

右傾化の傾向や北朝鮮の脅威が増し、国家間の緊張が高まっている今だからこそ、スカイウォールという挑戦的な題材に挑めたのだと考える。

 

これからどのように各都を描くのかが楽しみだ。

 

謎が謎を呼ぶ

今作には多くの謎があり、その謎を解明していくことが今作を楽しむ上での一つのポイントになっていたと感じる。

葛城巧殺害事件の真相を掴むことが第1クールの主軸になっている。

それと並行して、記憶を失う前の戦兎を追いかけたり、ブラッドスタークの正体に気づいたり、紗羽の正体を暴いたりした。

まさに「モジュラー形式」の物語になっている。

その中の二つ、「葛城巧殺害事件」と「ブラッドスタークの正体」を取り上げたいと思う。

 

葛城巧殺害事件

物語の根幹にあるのは、「桐生戦兎は記憶を失う前は何処の誰だったのか」と「万丈龍我に無実の罪を着せたのは誰か」という謎であり、それを解決しようと戦兎たちが行動することで物語は進行する。

そしてその両方の事件に、1年前に葛城巧が亡くなった事件が関係していることが判明し、二人はその事件の真相を追うことになる。

驚くことに、1クールで葛城巧殺害事件の全貌が明らかになってしまった。

(まだ裏はあるかもしれないが。)

 

ファウストを辞めようとしていた葛城巧がブラッドスタークと口論になった結果、スタークは葛城を気絶される。

その時、新薬の実験のアルバイトという名目で呼ばれていた佐藤太郎という青年が葛城の部屋に入り、スタークに命を奪われる。

スタークの顔を変える能力で、佐藤太郎と葛城巧の顔が交換され、まるで葛城が亡くなったかのように偽装された。

命を奪われ、葛城巧の顔に変えられた佐藤太郎がいる部屋に呼ばれた万丈龍我は警察に捕まり、逮捕された。

一方で、佐藤太郎の顔に変えられた葛城巧はブラッドスタークの記憶抹消能力によって記憶を消され、惣一によってわざと拾われ「桐生戦兎」としてnascitaで生きることになった。

 

全ての元凶

事件の全貌を見て分かる通り、ほぼ全ての元凶がブラッドスタークだ。

 

『2話 無実のランウェイ』では石動惣一がタブレットを孫の手に変え、『10話 滅亡のテクノロジー』ではブラッドスタークが初めて顔を変える能力を披露する。

今思い返すと一応伏線らしきものはあったが、火星の力は物を変形することができ、人の顔を変えることもでき、おまけに人の記憶まで消すことができることも判明する。

ブラッドスターク (石動惣一) の能力に関しては完全に未知数で、事件に関して知れば知るほど新たな能力が判明する

自称していた通り、物語上ではまさにブラッドスタークは「ゲームメーカー」として機能して、本当に何でもありな状況になってしまっているのは否めない

 

「謎が謎を呼ぶ」と銘打たれた今作だが、その第1クールの物語の主軸とも言える葛城巧殺害事件は、ミステリーを楽しみたくて今作を観る人には少々物足りない作りになっているのではないか。

 

情報の小出し

事件の真相を追い求めていた戦兎たちであったが、今作では事件に関する何らかの謎が毎週提示されて、その謎がまた新たな謎を呼ぶというような作りになっていた。

謎がクリフハンガーとして次週へのひきとなることが多く、毎週ワクワクしながら次の放送を楽しみにしていた人が多いのではないだろうか。

 

例えば、『4話 証言はゼロになる』でnascitaの地下で惣一がパンドラボックスのパネルを隠し持っていたことが発覚するという、強烈なクリフハンガーで終わった。

こちらがちょうど放送時間変更前の最後の回で、時間帯変更後も継続的に視聴してもらうために持ってきたクリフハンガーだ。

この例に限らず、毎週何かしらのクリフハンガーがあった印象だ。

 

そのおかげで毎週非常にテンポよくストーリーが進み、謎が謎のまま引っ張られることも少なかったため、個人的にはすごく好きな作り方ではあった。 

個人的には、紗羽が難波重工と繋がっていることが判明した回が特に好きだった。 

 

しかし、多くのクリフハンガーが唐突に思えてしまってならなかった。

『7話 悪魔のサイエンティスト』で、ブラッドスタークが唐突に「楽しませてくれた御礼に一つ教えてやろう。葛城こそスマッシュの生みの親。葛城巧がファウストを作ったんだよ!」と暴露したり。

『9話 プロジェクトビルドの罠』で、研究員の桑田が自害する前に唐突に「最後に教えてあげよう。葛城巧は生きている!」と暴露したり。

『12話 陰謀のセオリー』で、鍋島の記憶が唐突に甦り、龍我に罪を着せるように指示した人を思い出したと電話をかけてきたり。

『14話 偽りの仮面ライダー』で、惣一が戦いに負けた後唐突に「最後に一つ教えてやる。氷室幻徳には気をつけろ。奴が本当のナイトローグだ。」と暴露したり。

 

敵側が唐突に情報を暴露することによって話が進むことが多かった気がする。

そして、その情報を戦兎たちが直ぐ鵜呑みにするのも少し引っ掛かってしまった。 

 

確かにブラッドスタークは「ゲームメーカー」と自称しているので、断片的な情報を戦兎たちに与えて彼らを思い通りに動かしていると考えると理に適う。

そう考えるとブラッドスタークは脚本上かなり都合のいいキャラクターなのかもしれない。

 

だが、せっかく主人公側に頭脳明晰な天才物理学者がいるくらいなのだから、もう少し敵側に踊らされることなく謎を解いてほしかった気がする。

葛城巧殺害事件の真相に至っては、幻徳本人の口から全貌が嬉々として話されてしまうし。

ただ情報を「餌付け」されていたため、1クール間事件の真相を暴こうとした戦兎たちの努力は何だったのか、となりかねない。

折角ストーリーは毎週わくわくする展開が続いていたのに、その辺が少しもったいなかった気がする。

 

ブラッドスタークの正体 

今作のもう一つの謎が、ブラッドスタークの正体だ。

ブラッドスタークの変身後の声に敢えて声優を起用していることや、ナイトローグが変身前の姿を見せている場面でもブラッドスタークが変身を解除することがなかったことから、ブラッドスタークの正体に関してファンの間では結構考察されていた。

 

今思い返すと、ブラッドスタークの正体は割と分かりやすかった。

ブラッドスタークが出現する度に、惣一はバイトと言って戦兎たちのそばからいなくなるという不自然な場面が多かった。

また、戦兎たちの行動を常に把握していて、戦兎たちが戦う際にブラッドスタークが何故か出現することも多かった。

ブラッドスタークが美空を庇った場面も印象的だ。

 

答えは割と明らかではあったが、しっかりとヒントが散りばめられていたおかげで正体が判明した時にはすごい納得した

 

そして、戦兎がブラッドスタークの正体を自分の力で暴いたのも良かった。

特に、ビルドが新しいボトルを手に入れる度にその攻撃をブラッドスタークが毎回読んでいたことに目をつけて、マスターには内緒でオクトパスライトの力を手に入れて、ブラッドスタークとの戦いで試してみた展開が印象的だった。

 

戦兎とマスターの絆や、マスターが戦兎のことを家族のように慕っていたことがしっかりと描かれていたため、戦兎がマスターに裏切り者であってほしくないと願っていたことがより一層伝わったのではないか。

そして美空のことも考えると、気づいたら視聴者側もマスターがブラッドスタークであってほしくない、と願い始めていたのではなかろうか。

 

桐生戦兎のアイデンティティ

今作の第1クールの大きなテーマは、「アイデンティティ」であると感じる。

そしてそのテーマの中心にいるのが、記憶喪失のために1年前の自分を知らない桐生戦兎だ。

 

戦兎は、困っている人がいたら見返りを期待することなく助ける。

そして誰かの力になったら仮面の下でクシャっとなる。

自分の過去よりもビルドを優先するくらい正義感が強い戦兎は、今作では最初から「仮面ライダーとしては完成している」と考えていいだろう。

 

しかし、戦兎の過去が徐々に明らかになっていくと同時に、戦兎のアイデンティティが揺らぎ始める。

 

『5話 危ういアイデンティティ』で、戦兎が記憶を失う前は売れないバンドマンの佐藤太郎であったという疑惑が生じたところから始まる。

 

記憶喪失だった戦兎は、自分がこうありたいという理想の人間を演じることでギリギリ自分を保っていたからこそ、『6話 怒りのムーンサルト』で戦兎もネビュラガスを注入されたことが発覚した時は乱心する。

正義のためと戦ってきた戦兎が悪事をするスマッシュと変わらないことを知り、自分のアイデンティティがどんどん崩壊していくのを感じたのだろう。

だからこそ、あのシーンでは我を忘れてあれほどブラッドスタークに殴りかかったのかもしれない。

 

 

そのアイデンティティの崩壊は、『13話 ベールを脱ぐのは誰?』でマスターがブラッドスタークであったことを知って加速する。

 

 

記憶喪失になった戦兎は、マスターに拾われ、マスターによって「桐生戦兎」と名付けられ、マスターにビルドドライバーを渡され、マスターに家族として慕われた。

マスターのおかげで、戦兎は人間らしくいることができた。

そう考えると、「正義のヒーロー」としての桐生戦兎は、敵であるマスターの巧妙な誘導に仕立て上げられたというかなり辛い事実がある。

その張本人に「仮面ライダーごっこ」と揶揄までされて、戦兎にとってのショックは相当大きかったに違いない。

しかし、「愛と平和のために」ビルドの力を使って戦う真っ直ぐな部分は、戦兎が自分自身の理想を演じてきたためにある

つまり、ビルドの力を正しく使うことができているのはマスターのおかげでも何でもなく、戦兎自身の人格のおかげだ。

それに気づいたからこそ、『14話 偽りの仮面ライダー』で戦兎はマスターから脱却し、自分自身で現在の「桐生戦兎」という「正義のヒーロー」の人格を肯定することができたのではなかろうか。

 

そして、最終的に『16話 兵器のヒーロー』では、過去の戦兎が「悪魔の科学者」とも呼ばれる葛城巧であったことが判明。

 

自分が信じる正義のために理想を演じ続けてきていた戦兎が、ネビュラガスを使ったスマッシュの人体実験をしていた張本人であったという事実は戦兎にとってはあまりにも大きすぎるショックだったはずだ。

だが、そんな戦兎の過去からの脱却とアイデンティティの再確立を助けたのは龍我や美空だ

 ずっと傍にいた二人が見てきた桐生戦兎という人物の、ナルシストで自意識過剰な正義のヒーローである姿や、ビルドとして大勢の明日・未来・希望を創ってきた姿を肯定したことで、セントは「葛城巧」や「佐藤太郎」という自分自身の過去から解放され、晴れて正義のヒーローとしてのアイデンティティを再び確立することができた。

 

「完成されたヒーロー」である桐生戦兎が一度アイデンティティの危機に陥るものの、周りの力によってアイデンティティを取り返す、というのは「同族同士の争い」を描く仮面ライダーシリーズならではの落としどころで、非常に秀逸に感じた。

そして、戦兎のアイデンティティの再確立を通して「仮面ライダーとは何か?」を我々も再確認できた。 

 

そんな「完成されたヒーロー」は、各々の正義がぶつかる戦争に直面して再び成長を強いられる気がするが。

 

万丈龍我の成長

仮面ライダービルド ライダーヒーローシリーズ 11 仮面ライダークローズ

仮面ライダービルド ライダーヒーローシリーズ 11 仮面ライダークローズ

 

今作の第1クールのもう一つの大きなテーマは、万丈龍我の仮面ライダーとしての成長だ。

 

最初は、自分の冤罪を晴らすためにただただ必死で、そのためか少し自己中心的な人物として登場。

そんな龍我は「完成されたヒーロー」の戦兎に出会って変わっていく「成長するヒーロー」として描かれる

 

戦兎の相棒的な立ち位置で、戦兎のそばで戦うことにより多くのことを吸収する。

見返りを期待することなくビルドとして戦う姿勢、

困った人がいたら誰でも助ける姿勢、

自分のことを後回しにしてでもビルドをやる姿勢。

 

時には戦兎の行動を疑問に思うこともあったりするが、そんなときに戦兎の行動理念を龍我に伝える役割をヒロインの美空が担っているのもなかなか面白い。

 

 

龍我は、平成仮面ライダーシリーズでは珍しく、1話から登場する2号ライダーだ。

しかし、変身能力は手に入っていないため、第1クールの前半では龍我はドラゴンフルボトルの力だけを用いて、生身で戦っていることが殆どだ。

  

仮面ライダービルド DXクローズドラゴン

仮面ライダービルド DXクローズドラゴン

 

そして『11話 燃えろドラゴン』で龍我は漸く変身能力を手に入れる。

しかし、クローズドラゴンは大脳辺縁系と連動しているため、「誰かを助けたい」という気持ちがないと龍我は変身できないようになっている。

 

戦兎が、龍我がヒーローとして精神的に成熟するまで変身をさせないように設定することにより「仮面ライダー」であることに意味を持たせている。

また、仮面ライダークローズへの変身は、龍我の成長の証にもなっている。

 

 

そして、面白いことに『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』が、龍我が戦う理由を見つけ出す一つの終着点になっていた。

最初は戦兎が「ラブ&ピース」のために戦うと言っていたのを龍我は嘲笑する。

しかし、戦兎だけでなく、エグゼイドの宝生永夢やレジェンドライダーの先輩たちが戦う姿を見て、彼らに戦う理由を尋ねることによって、自分自身の答えを導き出す。

自分が信じた、自分を信じてくれたもののために

 

 

龍我というバカではあるが一番素直で表裏のない登場人物に、視聴者からの視点で「仮面ライダーとは?」と問いかけさせるのは非常に有効であると感じた。

彼のような人物がいたからこそ戦兎に疑問を投げかけることができたし、多くの視聴者も彼の成長を応援していたのではなかろうか。

 

二面性

 今作の物語で一つ気になったのが、登場人物の殆どにどこか二面性があることだ。

 

桐生戦兎は、正義のヒーロー仮面ライダービルドの一面と、ベールに覆われた記憶喪失前の一面。

石動美空は、nascitaの地下で戦兎たちに協力する引きこもりなヒロインの一面と、ネットアイドル「みーたん」の一面。

内海成影は、東都先端物質学研究所の戦兎の上司という一面と、ファウストの一員の一面。

滝川紗羽は、戦兎たちに密着取材をするフリージャーナリストの一面と、難波重工のスパイの一面。

氷室幻徳は、東都政府首相補佐官の一面と、ナイトローグの一面。

石動惣一は、nascitaの優しいマスターの一面と、冷酷なブラッドスタークの一面。

 

この二面性があるからこそ、互いに騙し騙されて「狐と狸の化かし合い」が繰り広げられ、今作のミステリー要素がかなり面白くなった

 

今作の主要キャラクターの中で二面性がないのは万丈龍我くらいで、龍我は二面性を持つ周囲とは対照的に愚直で真っ直ぐなバカとして描かれる。

そういう意味では龍我に肩入れしていた視聴者も多かっただろう。

また、戦兎の「逃れられない悲劇の二面性」も上手く描かれたので、戦兎に同情する視聴者も多かったはずだ。

 

しかし、ほぼ全ての登場人物に「表」と「裏」ができたことによってドラマが難解になってしまったのも事実だ

登場人物の関係が非常に複雑に絡み合い、誰が誰のどの一面を知っていたかを把握するのが結構大変だ。

特に小さい子供なら尚更困惑したのではないだろうか。

 

仮面ライダーは、変身前の生身の姿と、変身後の仮面ライダーの姿の二つの姿、つまり、ある意味では二面性とも呼べる部分を持つ。

平成一期シリーズではそれをさらに拡大し、「仮面ライダーの変身者交代」や「複数の変身者」などのような、登場人物に多面性を持たせる設定を編み出し、斬新なドラマを作り上げた。

非常に魅力的な設定ではあるが、子供に分かりやすい作りを心がけた結果か (これは私の勝手な推測に過ぎない)、平成二期シリーズになるとこのような多面性が減っていった。

 

よって、今作で主要登場人物のほぼ全員に二面性を持たせたのは、重厚なドラマを作ろうと意識したうえでの挑戦的な決断なのではなかろうか

だが、果たして子供たちはついていけていたのか?というところが少し気になる。

 

モチーフのない玩具展開

今作の玩具には特にモチーフがないことが一つの特徴だ。

これは物語が商品展開に引っ張られることなく、ストーリーに専念するために考えたことだと今作のプロデューサーの大森氏は述べている。

無機物・有機物に関しては、『エグゼイド』ではゲームというモチーフを決めて、そこだけはちゃんと決めて走っていた部分だったのですが、それが「商品を売るための番組でしょ」と見えなくもない。もちろん、それは商品を買う人たちにとってはプラスに働いていると思うんですけど、単純に作品自体を見たい、ドラマを見たいという人たちにとっては邪魔する部分も少なからずあると思います。だから商品展開の速度を落とすという意味で、モチーフを今回用意しなかったというのが大きいですね。

最近の「仮面ライダー」は、劇中に登場するアイテム数が増えてきてしまったことによってモチーフが必要になっちゃったというところがあります。そんなデザインのよりどころとしてのモチーフを今回はどうしてもやりたくないということで、出てきたのが有機物と無機物の掛け合わせでした。これは別に僕から提案したわけではなくて、自然な流れとして出てきた感じです。おそらく有機物と無機物というイメージ自体がすごく「仮面ライダー」的な発想だから、ということだと思うんですけどね。

それはとにかくモチーフではないし、仮面ライダーが戦う時にそれがツールやデバイスとして使うにとどめられるので、ドラマには影響を与えない。完全に商品展開とドラマを切り分けた考え方のもとに進めたという感じです。あとは僕の考えが本当に追いついていなかったので……(笑)、もうそのころは『エグゼイド』にかかりっきりで、ドラマを考えられるレベルに達していなかった。あとでちゃんとドラマを作るために、ドラマに関与しないような商品展開にしたという感じでしたね。

さあ、新しい「仮面ライダー」を始めようか - 東映・大森Pが語るエグゼイドとビルドの"二か年計画" (1) "トゥルー・エンディング"の試み | マイナビニュース

バンダイから発売される玩具の売り上げが重視される平成仮面ライダーシリーズでこのような決断を下すのは非常に勇気のあることだと思う。

しかし、そこまでしてでもドラマ作りに専念したいという制作側の意気込みが伝わる。

この意気込みがどのように今作に影響を与えたのかを考えていきたい。

 

フルボトル

今作のキーアイテムとして登場するのが、ボトル型の「フルボトル」だ。

 

仮面ライダービルド DXゴリラモンドフルボトルセット

仮面ライダービルド DXゴリラモンドフルボトルセット

 

 

2本のフルボトルをかけ合わせることによってフォームチェンジをする仕組みだが、膨大な量のフルボトルを全てフォームチェンジに割り当てたのが玩具面での今作の大きな特徴ではないだろうか。

劇中に登場したオーメダルの合計18種類をフォームチェンジに割り当てた『仮面ライダーオーズ』の数を超え、16話時点だけでも戦兎が所持しているフルボトルは22本ある。

そしてその数をさらに増えていくことが予想される。

 

 

ここでフルボトルに関して注目してほしいのは、各フルボトルがなぜ各々の成分になっているのか、という描写がほぼないことだ。

恐らく、龍我の彼女の香澄から採取した成分からできたフルボトルがドラゴンフルボトルであったことを考えると、美空が各フルボトルの成分を決めている。

だが、美空がボトル生成機の中で何をやっているのかが不明で、少なくともこの第1クールではフルボトルが生成される過程が我々にはほぼ分からない。

 

今作には特定のモチーフがなく、「有機物」と「無機物」というあまりにも広い範囲の中から各フルボトルの成分が選ばれている。

何故掃除機なんだ!?何故コミックなんだ!?何故ライトなんだ!? という疑問を、平成二期シリーズを観てきた人たちは投げかけたくなるかもしれない。

 

 

ビルドのベストマッチの理由が劇中で全く説明されないのも同様だ。

これまでの平成二期シリーズ作品は、異色の組み合わせになんとか理由付けをしようと努力してきた

例えば、『仮面ライダーエグゼイド』では、「ドクター」×「ゲーム」である理由を命の価値に絡めて一年間描いてきた。

平成二期シリーズが頑張って理由付けしようとしてきたそのような拘りを見てきたら、「うさぎ」×「戦車」等がベストマッチなのか、という理由付けがないことに違和感を抱くかもしれない。

 

これらの違和感は、恐らく平成二期シリーズを観てきた我々が、キーアイテムに一貫したモチーフとその理由付けを当り前のように期待しているからかもしれない。

しかし、時にはその理由付けのために商品展開に引っ張られたり、ドラマの脚本に影響を及ぼすこともあったのではなかろうか。

 

そんな中、敢えてモチーフを設けなかった今作では「有機物」と「無機物」の何でもありな組み合わせで、これまでの平成二期シリーズの「モチーフへの拘り」を否定しているのかもしれない。

「別に理由がなくてもいいじゃないの!」という開き直りにさえ思えて、スタンスとしては非常に面白い。

これもまさに、「否定」を通して進化し続けてきた平成仮面ライダーシリーズでだからこそ認められるスタイルだ。

 

ベストマッチ探し

相性の良いフルボトル2本を組み合わせてビルドドライバーに装填することによって、「ベストマッチフォーム」が実現する。

そしてベストマッチ以外の組み合わせでは「トライアルフォーム」が実現する。

仮面ライダービルド 変身ベルト DXビルドドライバー

仮面ライダービルド 変身ベルト DXビルドドライバー

 

 

ベストマッチの設定を聞いたときに、仮面ライダーオーズのコンボのような設定を連想してしまった人は、ベストマッチの描写に戸惑ったのではなかろうか。

というのも、ビルドの変身者である戦兎はベストマッチを探すことに殆ど拘っていない様子だからだ。

一応、ベストマッチでしか必殺技のボルテックフィニッシュが発動できない、という設定はある。

しかし、劇中では、敵を目の前にしていきなり戦兎が場当たり的にベストマッチを探して行ったり、龍我がたまたまベストマッチを当てたり、割と勢い任せでベストマッチが見つかっていった。

ビルドドライバーにベストマッチ検索機能があるのだからnascitaでベストマッチを予め探しておけばいいものの、膨大な数のフルボトルの中から割とさらっとベストマッチを見つけてさらっと変身してしまうことが多い。

というかそもそも、フルボトルのキャップ部分にベストマッチするフルボトルの頭文字が載っているのにもかかわらず、それには劇中では全く触れられない。(正直、せめてベストマッチが見つかるまでは頭文字が現れないような演出をして欲しかった気がする。)

 

では何故戦兎たちがベストマッチ探しをする描写が殆どないのか?

「ベストマッチ」が商品展開の都合上、仕方なく生まれてしまった設定だと仮定すると理に適う。

フルボトルをDX版用にセット売りする必要があり、また、ビルドドライバーに収録できる音声の数に限界がある。

フルボトルを沢山売りたいが、全部の組み合わせを登場させて音声を収録していくとキリがないので、「ベストマッチ」という設定を作っておいたのではなかろうか。

そして、今作はドラマと商品展開を切り分けているが、「ベストマッチ」は脚本からすると「円滑な物語の進行を妨げる要素」になってしまいベストマッチ探しの描写が少々粗雑になったのではないだろうか。

 

アイテムを手に入れるまで

今作で感心した点の一つは、アイテムを手に入れるまでの経緯が過去作と比べてばっさり省略されている点だ。

 

 

これまでの作品では、主人公側が第三者からアイテムを提供されることが多かった。

例えば、『仮面ライダーエグゼイド』のガシャットは、ゲーム会社の幻夢コーポレーションからドラターライダーたちに提供された。

『仮面ライダー鎧武』の場合のロックシードは、錠前ディーラーやサガラを通してビートライダーズたちに提供された。

上記の2作品は割と理由づけがしっかりとしていて個人的には納得のできる展開でアイテムを手に入れていた印象だ。

しかし、「アイテムを手に入れるまで」の描写に割とストーリーの大部分が割かれていた結果、『仮面ライダー鎧武』や『仮面ライダーゴースト』、『仮面ライダーエグゼイド 』などの作品では第1クールがまるごとアイテムの争奪戦に割かれた。

 

よって、今作の主人公に天才物理学者を据えたことには商品展開上大きな意味があったと感じる。

 

仮面ライダービルド DXラビットタンクスパークリング

仮面ライダービルド DXラビットタンクスパークリング

 

 
ビルドドライバー自体やフルボトルは戦兎の発明品ではないが、武器やラビットタンクスパークリング、クローズドラゴン、スクラッシュドライバーなどの多くのアイテムは戦兎の発明品だ。

戦兎にアイテムを開発する能力が付与されたことによって、主人公がアイテムを開発しさえすればそれが使えるようになるので、玩具の販促スケジュールによってドラマが受ける影響が減った。 

主人公にアイテムを開発させるというある意味究極のチート技で、商品展開とドラマを切り離すことに成功した。

 

 

しかし、流石に天才物理学者が全てを開発できたら面白くないので、フルボトルだけは戦兎の独力では開発できないようになっている。

スマッシュを倒してその成分を回収し、それを美空に浄化してもらうことによってフルボトルが完成する、という設定になっている。

スマッシュを倒さないとフルボトルの力が手に入らないようになっているため、フォームチェンジを毎回手に入れながら順番にフルボトルをテンポ良く販促していくことができた。

「キーアイテムが手に入るまでの過程」がほぼ省略できつつ、ヒロインの美空にも戦兎たちの戦いをサポートするという役割ができるため、非常に有効的な設定だ。

 

「脱・二話完結型」

平成仮面ライダーシリーズは、基本的には奇数回と偶数回で一つのまとまりとなっている。

これは、二話ごとに監督が交代することや、怪人の予算の都合などがあると考えられる。

二話ごとのまとまりを緩やかに持ちながら縦軸にフォーカスをしていたシリーズもあったが (『仮面ライダーアギト』、『仮面ライダーファイズ』など)、特に平成二期シリーズに突入してからは多くのシリーズが所謂「二話完結型」のフォーマットを採用してきた。

(「二話完結型」については以前こちらで書いたので是非読んでいただきたい)

 

しかし、『仮面ライダーウィザード』辺りになるとどうしてもマンネリ化が起きてしまい、『仮面ライダー鎧武』からは「脱・二話完結型」の動きが始まった。

『仮面ライダードライブ』では一度だけ「三話完結型」に挑戦したり、『仮面ライダーゴースト』の序盤では「一話完結型」に挑戦したり。

そして前作の『仮面ライダーエグゼイド』では、縦軸重視の群集劇で話を動かしつつ、従来の「二話完結型」の特徴を「患者の治療」という形でブレンドさせた。

 

 

今作のフォーマットは、「脱・二話完結型」の一つの集大成ともいえるだろう。

 

まず、前作『仮面ライダーエグゼイド』と同様、「二話完結型」でお馴染みの、二話ごとに一体の怪人が登場する、というフォーマットが今作にもない

フルボトルを効率良く浄化する必要もあるため、(殆どの場合) 一話ごとにスマッシュが登場し、その回の内に倒す。

その弊害としてスマッシュ側のドラマが殆どないため、ナイトローグやブラッドスタークというような魅力的な怪人を配置したことにも頷ける。

 

一方で、「二話完結型」の特徴の一つでもある「ゲストのお悩み相談」、つまり前作でいうところの「患者の治療」の要素がほとんどないのが前作との大きな違いだ。

一応、『3話 正義のボーダーライン』と『4話 証言はゼロになる』では鍋島正弘、『5話 危ういアイデンティティ』と『6話 怒りのムーンサルト』では岸田立弥、『7話 悪魔のサイエンティスト』と『8話 メモリーが語りはじめる』では葛城京香が、連続する二話のゲストになっていた。

だが、彼らはお悩み相談のために戦兎の元へと駆けつけてきたわけでなく、葛城巧殺害事件を追っているうちに出会った人たちだ。

一般市民に寄り添って助ける描写が殆どなくなってしまったことが少し残念かもしれない。

 

 

「脱・二話完結型」を成し遂げて、今作では「縦軸重視型」のストーリーに挑戦している。

「葛城巧殺害事件」を第1クールの縦軸にして、謎の提示から解決までをこのクールを通して描いていった。

大きな縦軸があるため、重厚なドラマが出来上がり、毎週末を楽しみにしながら待っていた人が多いのではなかろうか。

 

しかし、縦軸重視のストーリーの弊害としては、子供がついていきにくい、という点が大きいと考えている。

今でこそ東映特撮ファンクラブなどの配信サービスや、ストーリーをまとめてくれるまとめサイトなどのネットコンテンツが充実しているため、見逃してもあまり痛くないかもしれない。

大人ならそのようなコンテンツに簡単にアクセスして一気見などもできるだろうが、メインターゲットである未就学児がそのようなコンテンツに触れる機会を持つことは恐らく少ないだろう。 (統計も何もないので勝手な推測だが)

よって、ドラマの観点だけから見ると、途中参戦がしにくいし、一回見逃してしまうとどうしても話についていけなくなる。

また、過去の放送を見返さないと分かりにくい部分も多くあるかもしれない。

 

それを考慮してか、今作の冒頭には、戦兎と龍我の掛け合いによる分かりやすい「あらすじ紹介」が入っている。

メタ的な要素が多く、本編との温度差が割とあるこの「あらすじ紹介」だが、これが小さい子供への配慮のために入れられているのだと考えると合点がいく。

 

結論

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 「子供向け」と「子供騙し」は違う

平成仮面ライダーシリーズは、「子供向け」だからと言って「子供騙し」にしてはならない、という制作側の考えと拘りがすごく伝わってくるシリーズだと考える。

だからこそ、これまで未就学児向けでありながらも、その子供の親までもが楽しめるような作品を提供し続けてきてくれたのだと思う。

 

コンテンツの肥大化と共に自主規制が働いてしまうため、グロ描写などが段々と平成仮面ライダーシリーズから消えていった。

例えば平成一期シリーズ初期の『仮面ライダークウガ』や『仮面ライダー龍騎』で表現したことが、今この時代で表現しづらいのは仕方ないことなのかもしれない。

 

しかし、近年加速する少子化の影響で視聴率も徐々に落ちていき、これからも落ちていくことが危惧される。

そして今作で放送時間が日曜の朝9時からに移動したが、同じく未就学児をターゲット層にした『ドラゴンボール超』がフジテレビ系列で同じ時間に放送されている。

 

少子化と裏番組という二つの脅威に同時に向き合わざるを得なかったのが今作である。

 

ここで、日本人の日曜日の平均起床時間の統計を見ていただきたい。

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(出典: 平成28年度 社会生活基本調査) 

 

平成仮面ライダーシリーズの従来の放送開始時間であった朝の8時には起きていなかった高校生や20代の若者たちも、朝の9時には起きている。

よって、平成仮面ライダーシリーズは時間帯が移動したことにより、より幅広い年齢層に観てもらえる可能性を持ったと考えても良いのではなかろうか。

 

 

だからこそ、今作は「子供向け番組」でありながらそのもっと上の年齢層も本格的に意識しているのだと私は考える。

勿論、従来のターゲット層である未就学児を見捨てるわけではなく、分かりやすいあらすじ紹介や遊び甲斐のある玩具という「子供向け」要素はしっかりとある。

だが、若者などの幅広い年齢層にもこれからは楽しんでもらおう、という制作側の姿勢を感じる。

そしてこのターゲット層の拡大により、これまで制作側が行ってきた自主規制が解かれつつあるように感じる。

 

スカイウォールを通して「戦争」を描こうとしている姿勢にこのシフトチェンジが現れている。

これまでも時事問題や世の中の傾向を反映させた作品が多かったが、「子供向け」に割とオブラートに包まれることが多かった。

今作では、時事問題を、「戦争」というテーマでこれまで以上にダイレクトに描いているところから、制作側のスタンスの変化を感じる。

しかも、社会の不安定化を懸念する若者たちの関心を引くようなテーマなのではなかろうか。

 

そして、より幅広い層に本格的に観てもらうためにも、これほどドラマに振り切ったストーリーに挑戦したのではなかろうか。

「謎が謎を呼ぶ展開」や「縦軸重視型」の構成によって次週を楽しみにしてもらうような作りになっていたり、ドラマと商品展開を切り離してまでして、魅力的なドラマの制作に尽力している。

 

また、新規視聴者を取り込もうとする姿勢の表れか、今作のストーリーは「仮面ライダーとは?」と我々に真っ直ぐに問いかけている

「同族同士の争い」で生じる「アイデンティティ問題」を抱える主人公、桐生戦兎。

1章かけて「仮面ライダー」への成長が描かれた二号ライダー、万丈龍我。

初代『仮面ライダー』のオマージュとも言えるファウストの人体実験の描写。

(少なくとも序盤における) バイクアクションの活用。

このように「仮面ライダー」の定義を問い直すには、この時間帯移動が良い機会だったのではないだろうか。

 

一方で、ターゲット層である未就学児と、もっと上の年齢層に向けた要素のバランスが現状としてまだ完全にとれていない気がする。

複雑な謎を扱う縦軸重視型ストーリーは我々のような「大きなお友達」は喜ぶものの、子供には分かりづらい部分が多い。

おもちゃ売り場でフルボトルが売れ残っているのを見ると心配になることもある。

未就学児たちが『仮面ライダービルド』に対してどのように感じているのかが気になるところだ。

 

しかし、挑戦を繰り返して成長し続けてきたシリーズだからこそ、「時間帯移動」というピンチをチャンスに変えられると信じている。

 

これから、第2章で各テーマをどのような方向にもっていくのかが楽しみだ。

 

 

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