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『機界戦隊ゼンカイジャー』はなぜシリーズの常識を覆す挑戦に踏み切ったのか

先日、『スーパー戦隊シリーズ』の45作目である『機械戦隊ゼンカイジャー』が公開された。
今作は、35作目の『海賊戦隊ゴーカイジャー』ぶりに、過去作とのクロスオーバーを行う記念作品であるようだ。
ただ、記者会見等で明かされた情報によれば、今作には史上初ともなる衝撃的な挑戦がたくさん盛り込まれている様子だ。
『海賊戦隊ゴーカイジャー』の次に製作された作品である『特命戦隊ゴーバスターズ』以降の10年間で、『スーパー戦隊シリーズ』がどのような軌跡をたどってきたのかを振り返りつつ、今作の挑戦の意図に迫っていきたい。


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二本の柱

『仮面ライダーシリーズ』が“挑戦”の歴史であれば、『スーパー戦隊シリーズ』はどちらかというと“安定”を追求してきたシリーズである。


『秘密戦隊ゴレンジャー』が5人の戦隊として始まったことをきっかけに、(一部シリーズを除き) 以後の作品における戦隊チームは基本的に初期メンバー5人前後で編成される“集団ヒーロー”である。
各戦士のスーツデザインは基本的には統一されていて、赤色、黄色、緑色、青色、ピンク色などの色で明確に識別された。
それ故、戦士たちは大体「◯◯レッド」「◯◯ブルー」などと名づけられていた。
そして、その中でも赤い戦士 (レッド) が (『ジャッカー電撃隊』のビッグワンという例外を除き) 必ずチームの中心にいた。


また、『バトルフィーバーJ』以降の全ての作品には“巨大戦”があることも特徴だ。
敵は一度等身大の姿で倒されたら何らかの方法で巨大化するため、戦隊チームは自分たちの巨大ロボットに乗って応戦する。


このように、“集団ヒーロー”と“巨大戦”という二本の柱が『スーパー戦隊シリーズ』を特徴付け、それらがシリーズを通して普遍的なものであり続けたからこそ“安定”しているように思えた
ただ、『特命戦隊ゴーバスターズ』以降の作品では、その二本の柱に対して変化球なアプローチをすることが増えた。


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キカイな“集団ヒーロー”

近年の潮流を見ていると、“集団ヒーロー”を描く『スーパー戦隊シリーズ』は、スーパー戦隊“らしい”チーム編成からの脱脚を目指している印象がある。


たとえば、『動物戦隊ジュウオウジャー』は、ジュウオウイーグルに変身する大和以外の初期メンバー4人はジューマンという異世界の人間である設定であった。

そのため、ジュウマンたちには人間態以外にも獣人としての姿である「ジュウマン態」もあった。


『宇宙戦隊キュウレンジャー』は、9人の初期メンバーで構成される異色の戦隊であった。

「遥か遠い未来の宇宙」を舞台にしていることから、9人の戦士の中に人間態を持たない獣人型の宇宙人やアンドロイドなどがいた。
そして、その人数の多さを逆手に取り、「1人1人がスーパースター、9人揃ってオールスター」というコンセプトのもとで、一人ひとりのメンバーを個性的で且つ力強く描くように工夫された。


続く『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は、二つの異なる戦隊が対決をするという斬新な構成であった。

同じ作品にレッドが二人いる (ルパンレッドとパトレン1号) ことから、ビジュアル的にも非常にインパクトはある。
また、怪盗と警察という関係であることから基本的には二つの戦隊は対立しつつも、ルパンレンジャー側の正体がパトレンジャー側にバレていないことから人間態では少しずつ親しくなってしまうという、絶妙なバランス感のドラマが描かれた。


このように、スーパー戦隊“らしい”チーム編成から脱却することで、世間に驚きの第一印象を与えることができた
それと同時に、より多種多様な境遇や出自の戦士が活躍する“集団ヒーロー”の在り方を描くことができ、そのおかげで新たな観点からストーリーを作ることができるようになったと考える。
それが功を奏してか、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は、放送文化の向上に貢献した番組や個人・団体を表彰する「ギャラクシー賞」のテレビ部門を『スーパー戦隊シリーズ』で初めて受賞することができた。



今作は、ゼンカイジャーの初期メンバーの人数だけを見れば、これまでの『スーパー戦隊シリーズ』らしく5人である。
しかし、ゼンカイジャーの戦士5人のうち、ゼンカイザーのみが人間で、残りの4人はキカイノイドというロボである。

とてつもなく巨大な魔の手が、主人公が住む世界にも忍び寄ってきたその時、正義の心をもって立ち上がるのが1人のヒーロー・ゼンカイザーです。そして彼とともに戦う4人の仲間は、なんと“機械生命体”…いわゆるロボットです。そう、本作は1人の“人間”ヒーローと4人の“ロボ”ヒーローが主役というこれまでにない斬新なスーパー戦隊なのです!

『機界戦隊ゼンカイジャー』 2021年3月7日(日)スタート! 【毎週日曜】 午前 9:30~10:00 放送 | 東映[テレビ]

キカイノイドがゼンカイジャーの戦士に変身することは、『動物戦隊ジュウオウジャー』のジュウマンや、『宇宙戦隊キュウレンジャー』の宇宙人やアンドロイドなどが前例としてあることからも、そこまで大きな驚きではない。


ただ、ゼンカイジャーには人間が1人しかいないことはスーツデザインを通してビジュアル的にもかなり強調されているからこそ、その衝撃が大きい
というのも、ゼンカイジュランらキカイノイドがそのままの姿で巨大化して巨大戦で戦うことを想定したデザインであることもあり、ゼンカイザーとはスーツデザインがかなり違うからだ。
これまでの作品では、初期メンバーのスーツデザインは基本的には統一されていて、色で明確に識別してきた。
例外としてスーツデザインにメンバーの個性を取り入れた『宇宙戦隊キュウレンジャー』ですら、ある程度の統一感はあった。
そう考えると、初見では同じ戦隊チームだとは思えないゼンカイジャーの5人のスーツデザインは前代未聞だ。


更には、唯一の人間であり、チームの中心戦士でもあるゼンカイザーが“レッド”ではないことも衝撃的な点だ
『スーパー戦隊MOVIEレンジャー2021』の予告にて、『秘密戦隊ゴレンジャー』のアカレンジャーに「お前、赤じゃないのか!?」と突っ込まれていたほどだ。
『劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』と『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』の上映終了後に放映された『スーパー戦隊MOVIEレンジャー2021』の予告でゼンカイザーの姿が映し出されたときに、多くの人が驚いたのではないだろうか。
ゼンカイザーはアカレンジャーをモチーフにしていると言われているが、赤色より白色の方が主張が強いスーツデザインだ。
更に、スーツにはスーパー戦隊で定番の五色 (赤色、黄色、緑色、青色、ピンク色) のラインが入っている。
このようなことからも、「五色田介人」という名前の通り、ゼンカイザーは“レッド”担当ではなく、“五色”担当と言った方が正確かもしれない。


ゼンカイジャーは、「5人の“集団ヒーロー”」というスーパー戦隊の特徴は残しつつも、「統一されたスーツデザイン」「中心戦士はレッド」といったこれまでのシリーズにおける伝統を堂々と破ってきた。
そう考えると、チーム編成に関しては『スーパー戦隊シリーズ』の歴史を振り返ってもかなり特殊なものとなっている。


ゼンカイジャーの5人中の4人をロボになったことは、ちょうどCOVID-19の渦中に制作された前作の『魔進戦隊キラメイジャー』 における経験が影響しているという意見も散見された。

というのも、2020年3月にキラメイレッド役の小宮璃央さんがCOVID-19に感染したり*1、2020年4月に政府が緊急事態宣言を発令した際に撮影を中断せざるを得ない状況に陥ったりしたからだ。
ロボ同士の演技だと飛沫感染などのリスクも低減することからも、たしかにキカイノイドの存在はリスク対策の意味合いもあるかもしれない。
ただ、先述したように、シリーズが近年スーパー戦隊“らしい”チーム編成からの脱却を目指していたことを考えると、遅かれ早かれこのような戦隊が生まれる運命にあったと考える。


第一印象の衝撃という意味では、世間の注目をかなり集めることに成功したと私は感じる。
ここから先、この新たな“集団ヒーロー”の在り方がどのように作品の物語に活かされるかに期待したい。

“巨大戦”の進化

戦隊ロボは、同じニチアサ枠の『仮面ライダーシリーズ』などとの差別化を図るうえでは非常に重要な要素である。
また、玩具の売上の中で戦隊ロボの存在が大きいことを、以下のインタビューで東映顧問の鈴木武幸氏が述べていることからも、作中でのロボの販促の重要性が分かる。

――戦隊といえば合体ロボもすごいですね。

そう。売り上げの中でロボットの存在は大きいんです。最近の子どもは特に飽きっぽいんですよ。昔は1体のロボットで1年間遊んでくれたんですけど、今は3カ月くらいで飽きちゃう。だからすぐに2号ロボ、3号ロボと、相次いで出していかないといけないんです。

「5人」だから戦隊ものは米国で大ヒットした | 映画界のキーパーソンに直撃 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

そんな戦隊ロボが活躍する場として設けられている“巨大戦”に関しても、近年の潮流を見ていると、変革が進んでいる。


その変革の発端は、『特命戦隊ゴーバスターズ』であると私は考える。

戦隊ロボが活躍するための“巨大戦”を入れざるを得ないため、制作陣が物語を作るうえで困難が生じていることを、チーフプロデューサーを務めた武部直美氏が以下の記事で証言している。

この企画の取っ掛かりは、「仮面ライダー」になくて「スーパー戦隊」にあるものはなんだということでした。それは、ロボ戦なんですね。そのロボ戦がプラスアルファみたいな扱いになっていることは、以前から感じていまして、靖子さんも「スーパー戦隊」にはクライマックスが2回あるから難しいとおっしゃっていたんです。じゃあ、そうじゃないのをやろうということで、ロボ戦にしっかり取り組んでみようということになったんです。

— 『スーパー戦隊 OFFICIAL MOOK 21世紀 VOL.12 特命戦隊ゴーバスターズ』

従来の『スーパー戦隊シリーズ』では、一度等身大の姿で敵を倒してから巨大戦 (ロボ戦) が始まるため、“二回戦制”の構成になっていた。
ただ、この“二回戦制”の構成の影響で、物語の作り方によっては巨大戦は消化試合であるかのような印象を与えかねない。
そのような問題意識から、『特命戦隊ゴーバスターズ』は巨大戦自体にドラマを与えることで巨大戦により意味を持たせるような作劇になった。


それ以降の作品でも、『スーパー戦隊シリーズ』は“巨大戦”にドラマを盛り込むように果敢に挑戦してきた印象だ。
たとえば、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』では、各々の戦隊ロボへの合体を実現するためには「グッドストライカー」の力が必要であるという設定を付与したため、どちらの戦隊が戦隊ロボで戦うことができるのかを見守るワクワク感をドラマに組み込むことができた。


次作の『騎士龍戦隊リュウソウジャー』は、従来の「“等身大戦”からの“巨大戦”」といったフォーマットを崩す異色の作品となった。
『リュウソウジャー』では敵が等身大の姿で倒される前に勝手に巨大化するため、“等身大戦”と“巨大戦”の壁を構成上撤廃することに成功した。
つまり、従来の“二回戦制”の構成に対して、『リュウソウジャー』では事実上“一回戦制”の構成になった。
その影響で、従来よりも戦いのクライマックスを巨大戦に持ってくることができるような構成になったと、以下の記事でも語られている。

東映の丸山真哉プロデューサーは「巨大な敵を、方法を考えて倒すということを意識しています。巨大な敵を倒すところがクライマックスで、合体して敵を倒すところに物語的なピークをもっていきたいなということをすごく意識してやっています」と思いを語っている。

スーパー戦隊の定番にこだわらないリュウソウジャーの巨大戦「物語のピーク」を意識/戦隊シリーズ/芸能/デイリースポーツ online


このように、『特命戦隊ゴーバスターズ』以降の『スーパー戦隊シリーズ』の作品は「“巨大戦”の変革」の歴史でもあると言えよう




そして、『機械戦隊ゼンカイジャー』は、キカイノイドたちが“等身大戦”と“巨大戦”の両方で活躍する作品であるようだ。

本作の見どころのひとつとなるのは、“機械生命体”であるロボヒーローの巨大化!なんとロボヒーローは人間サイズの敵には等身大で戦い、巨大な敵にはそのまま巨大化して、巨大ロボとなって戦います。ヒーローがメカに乗って戦うという、スーパー戦隊の約束ごとをポジティブに裏切り、ロボヒーローがそのまま巨大戦でも大活躍!

『機界戦隊ゼンカイジャー』 2021年3月7日(日)スタート! 【毎週日曜】 午前 9:30~10:00 放送 | 東映[テレビ]


この斬新な設定のおかげで、ロボが“等身大戦”のときにも登場することになる。
ロボが画面上で活躍する機会が増えることで、ロボの玩具の販促という観点では非常に効果的であることが予測される。
というのも、やはり常識的に考えると、ロボが活躍する時間が長ければ長いほど、子供たちにはより魅力的に写る可能性があるからだ。


また、等身大のヒーローがそのまま巨大化するのだから、“等身大戦”と“巨大戦”の壁がこれまで以上に薄れることにも期待できる。
この変革によって、作品の作り方どのように変わるのかに注目していきたい。


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結論

今作のチーフプロデューサーを務めるのは、白倉伸一郎氏と武部直美氏だ。
『平成仮面ライダーシリーズ』の数多くの作品でプロデューサーを務めた二人であり、最近だと『平成仮面ライダーシリーズ』の20作品記念作品である『仮面ライダージオウ』のプロデューサーも務めた。


白倉氏は、とあるインタビューで『スーパー戦隊シリーズ』のことを以下のように評していた。

— いやいや、でもやっぱすごいと思いますよ。シリーズが長く続いてくると、前にヒットしたパターンを踏襲しようとするシリーズのほうが圧倒的に多いと思うんですよ。
白倉 いや、そのほうが正しいと思いますよ (笑)。『サザエさん』が理想型なんであって、スーパー戦隊のやり方がいちばん理想というか。お色直しだけで成立するっていうと言葉は悪いんですけど、今度のスーパー戦隊は恐竜だとかサムライだとかって言うだけで、なんとなくイメージが湧くじゃないですか。
それがスーパー戦隊のいいところで、「スーパー戦隊とはこういうもの!」って在りようが、もう文化として視聴者に共有されてて、そこに何かしらのモチーフとかテーマとかを与えるだけで、パッとイメージが湧く。やっぱりそれが番組としては正しいやり方なんですね。

— 『語ろう!クウガ アギト 龍騎』(レッカ社、2013年) pp.372-373

このような発言からも、やはり『スーパー戦隊シリーズ』の“安定感”がシリーズの大きな特徴であり魅力でもあることが分かる。
そして、そのような“安定感”を支えてきたのは、“集団ヒーロー”と“巨大戦”という二本の柱である。


ただ、『スーパー戦隊シリーズ』はシリーズは近年、かなり危機的な状況に瀕している。
その証拠として、株式会社バンダイの決算短信における国内トイホビーのIP別売上高を見ると、『スーパー戦隊シリーズ』は2015年以降は年間100億円を切り続けていて、年々実績が下がっている。
膨大なコンテンツに溢れている現代において子供たちに選ばれる作品となるためにも、“変革”が欠かせないことはやはり明白であった。


ただ、やはり『スーパー戦隊シリーズ』たらしめる“集団ヒーロー”と“巨大戦”という二本の柱はシリーズの本質でもあり、決して譲れない部分でもある。
だからこそ、『特命戦隊ゴーバスターズ』以降の『スーパー戦隊シリーズ』は、その二本の柱を守り抜くために、その二本の柱を時代に即してアップデートし続けてきた印象だ
そしてそのアップデートが、“集団ヒーロー”のチーム編成の変革や、“巨大戦”の見せ方の変革といった挑戦である。


『機界戦隊ゼンカイジャー』の挑戦も、そのアップデートの延長線上にあると言えよう。
表層的には、スーパー戦隊“らしさ”が失われたと思うかもしれないが、『スーパー戦隊シリーズ』たらしめる二本の柱はたしかに残っている。
だからこそ、私は今作の挑戦は、割と合理的なものであると考える。


今作が『スーパー戦隊シリーズ』を窮地から救ってくれる作品となることに期待して、私は放送開始を楽しみにしていたい。




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