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仮面ライダー・映画・音楽に関する感想と考察。

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感想 『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』はなぜ賛否両論を巻き起こすストーリーになったか

『仮面ライダービルド』のテレビ本編後の出来事を描いたVシネマ『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』が、2019年1月25日より映画館での限定上映を始めた。
このVシネマは、完成披露試写会の時点で割と賛否両論あることで話題を呼んでいたため、私は内容が気になって公開初日に観に行った。
私生活が忙しくて感想をまとめるのに非常に時間がかかってしまったが、この記事では、初日に観た私の率直な感想を述べていきたい。
『仮面ライダービルド』好きの人の気分を害してしまう可能性がある表現も一部あるので、その点には留意していただきたい。


ちなみに、『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』は「東映特撮ファンクラブ」で視聴することができる。


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この記事には、Vシネマ『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』や『仮面ライダービルド』、その他関連作品のネタバレが含まれています。ご注意ください。


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二人っきりでなくなった世界

『仮面ライダービルド』のテレビ本編の最終話では、白いパンドラパネルの力で新世界を作ったことにより、戦兎と龍我以外の全ての登場人物の記憶が消えてしまい、それまでの惨劇がなかったことになった。
一方で、今作は、パンドラボックスが再び生まれた影響で、内海以外の主要登場人物の記憶が蘇った状態で物語が進行する。
内海が結果的にハブられることになったのは可哀想だったが、人体実験を受けた人たちの記憶が蘇る、という設定は、美空たちの記憶を蘇らせる口実としては割と理にかなっている。
『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』でも今作とは異なるロジックで美空たちの記憶は蘇ったが、筋運びの都合上他の登場人物にも活躍してもらう必要があることは理解できる。


しかし、『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』との大きな違いは、今作で美空たちの記憶が蘇ったのは永続的なものであるかのように描かれていた点だ。
つまり、『仮面ライダービルド』最終話で描かれていた戦兎と龍我が二人っきりの新世界は、今作の出来事を機に永続的に二人っきりの世界ではなくなってしまう。
一年間応援してきた我々ファンであれば、ヒーローたちが報われるハッピーエンドを誰しもが当然望むとは思う。
しかし、製作者側がそれでも『仮面ライダービルド』という作品をビターエンドにしたのは、戦兎の「見返りを求めない」「自己犠牲を厭わない」ヒーロー像を強調するためであったという認識でいた。
だからこそ、その「二人っきりの世界」を最後まで貫いてほしかった気持ちはすごいあるし、仮にその「二人っきりの世界」という状況を敢えて変えるのであればそれなりの理由は提示してほしかったところだ。
しかし、その意義が今作では結局最後まで提示されなかったので、ただテレビ本編の最終話のビターな結末を覆しただけになってしまった


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エボルトの完全復活

『仮面ライダービルド』の最終話でビルドたちに倒されたエボルトは、この一件で完全に復活する。
更に、また地球を滅ぼしに戻ってくる旨を伝え、エボルトは一切改心をしないまま自由な身になってしまう。


今作では、「ラブ&ピース」を取り戻すためにはエボルトと組む他ないことが提示された。
テレビ本編の戦兎たちが守り抜いた「ラブ&ピース」を、最大の敵エボルトと組んでまでして守ろうとしていることから、戦兎たちの「ラブ&ピース」に対する本気度は見えてきた
そういう意味では、今作は、テレビ本編で行き着いた考えを再確認する意味合いが強かったと感じる。


しかし、エボルトの復活に至るまでの経緯の描かれ方が非常にさっぱりしていて、今作でエボルトを復活させたいがために、心情描写や動機があまりないまま戦兎たちが脚本の都合で動かされていたかのように感じられた。
キルバスは共通の敵なので、ライダー陣営とエボルトの目的が一致しているのは分かる。
とはいえ、「ラブ&ピース」を再び脅かす可能性があるエボルトを、戦兎たちはあれほど直ぐに復活させることを決心できるのか?という疑問は残った。
エボルトがキルバスと組んでしまう可能性もあるうえ、エボルトを信頼する根拠は全くないのだから、エボルトを復活させることへの葛藤はもう少し描いてもよかったのではと思う。


『仮面ライダービルド』は、戦兎たちヒーロー側の「ビルド (創る、形成する)」とエボルト側の「破壊する」の対比が非常に分かりやすい作品であると感じていた。
だからこそ、あれほどの破壊行為に及んだエボルトは、今作の性質上、それなりの裁きを受けるべきだったと感じる。
そんなエボルトは最終話において制裁を受けたが、今作では完全復活を果たしたうえ、野放しの状態になって終わったので、受けたはずの制裁が完全に無効化してしまった。


エボルトは『仮面ライダービルド』のテレビ本編で終始敵として戦兎たちの前に立ちはだかっていた存在なので、折角49話かけてエボルトを相手に戦ってきた戦兎たちの努力が水の泡となってしまったことに関しては賛否両論あるだろう。
もしかすると、Vシネマの第二弾を製作することを前提に今作をこのように終わらせたのであって、第二弾でエボルトとの決着をつけるのかもしれない。
だか、今作を単体で見る限りだと、『仮面ライダービルド』という作品がどうしてもエボルトを自由の身にさせたかったかのように思えてしまう。


エボルトはたしかに歴代の平成仮面ライダーシリーズの中でもかなりの強敵で、「破壊」の規模がかなり大きかった印象だ。
そういう意味では、製作陣はもしかしたらエボルトを生き残らせることでそのしぶとさを強調したかったのかもしれない。
しかし、エボルトが更に強くなって地球に戻ってきたときに新世界がA世界以上の被害を被ることになるかもしれないため、エボルトと決着をつけて「ラブ&ピースを胸に生きていける世界」になったはずのテレビ本編の最終話が今作では覆されててしまった形になった。


また、他の星も滅ぼすと堂々と宣言をしていたので、宇宙規模で考えてもエボルトを野放しにしておくことは得策ではない。
一方で、龍我が「二度と (地球に) 戻ってくるな」とエボルトに放ったことから、龍我のスタンスが見えてくるのは面白い。
というのも、この龍我の台詞は「他の星ならいいが、地球に手を出したら許さない」と言っているかのようにとらえることができ、他の星に対しては無関心であるかのように感じられるからだ。
これは「正義のヒーロー」らしかぬ冷徹な考えに一見思えるかもしれないが、実はテレビ本編の戦兎も今回の龍我と同じく、他の星に対する無関心な姿勢を何度か見せている。
その最たる例が、『44話 エボルトの最期』で、ライダーたちに協力してくれていた火星人のベルナージュの魂が消えたかもしれなかった際に、戦兎が他人事であるかのようにふるまっていた場面だ。
そういう意味でも、龍我は桐生戦兎というヒーローを見て成長してきて、戦兎の価値観を受け継いだヒーローであることが分かる。
このように、エボルトの完全復活を通して、意外にも龍我が戦兎から受け継いだスタンスを再確認することができたのは、今作の一つの大きな功績かもしれない


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新たな”ベストマッチ”

本編終了後に製作されるVシネマでは、Vシネマの主人公に活躍させるために、テレビシリーズの方の主人公はわきへ寄る傾向がある。
Vシネマのこの性質の影響で、戦兎と龍我のベストマッチな関係性があまり描けないという弊害が生じてしまった。


そこで、今作では、万丈龍我とエボルトが期間限定の共同戦線を張ることになり、二人の”ベストマッチ”な関係性が描かれている。
そもそも、エボルトはテレビ本編では終始戦兎たちの前に立ちはだかっていた敵なので、そのエボルトと組む画はかなり新鮮に感じられた。
クローズとエボルトを融合させたクローズエボルのデザインなんかは、戦兎と龍我のベストマッチな関係性を表すクローズビルドフォームを彷彿とさせ、龍我とエボルトの”ベストマッチ”な関係性をうまく表現していたと感じる。
そういう意味では、Vシネマならではの特別感や意外性は割とあったと感じた。


今作は、戦兎と龍我の「ベストマッチ」な関係性を再確認させるための試練として、龍我とエボルトを組ませたことが想像できる
もちろん、龍我はエボルトが「相棒」であることを明確に否定し、戦兎が本当の相棒であると言い切っているので、本当の意味で”ベストマッチ”なわけではない。
テレビ本編の最終話で龍我が言っていた「俺の相棒は桐生戦兎ただ一人」という発言を踏まえるとこの結論に至るのは当然で、今作では改めて龍我の考えを確認できた。
テレビ本編でエボルトが散々地球を破壊し、多くの人々を傷つけてしまったことを考えると、テレビ本編の49話を通して「ラブ&ピース」のために戦うまで成長した龍我とは対極的な価値観を持つ。
なので、龍我がエボルトとマッチするはずがないし、『仮面ライダービルド』テレビ本編で度々戦兎との絆を確認してきた私たちであれば、エボルトが戦兎に代わる相棒に今更なることなんてあり得ないと分かるだろう。


しかし、共闘する二人の姿を見ていると、龍我とエボルトが思いの外「マッチ」しているかのように描かれていたことに割と衝撃を受けた。
映画『ヴェノム』のエディとヴェノムの関係を彷彿とさせるような、どこかデコボココンビとしての愛らしさすら感じられるようなやり取りがあった。
製作者側が、戦兎と龍我の「ベストマッチ」な関係性を再確認させるための試練として敢えて龍我をエボルトと組ませたのであれば、このエボルトとの微妙な「マッチ」具合は寧ろ逆効果になってしまったのではと思えてしまう。
結果的に龍我とエボルトを組ませることで戦兎と龍我の関係性を揺るがして試練を与えたのはいいものの、それを乗り越えたかどうかが曖昧なまま終わったので、まるでテレビ本編の最終話で行き着いた「俺の相棒は桐生戦兎ただ一人」という結論を今作が覆してしまったなのような印象を受けた
そして、『仮面ライダービルド』のテレビ本編で戦兎と龍我の関係構築を一年間応援してきた人は恐らく同様の印象を受けてしまうだろう。


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一般市民の視点

今作には、新世界でなぜか仮面ライダークローズの記憶を持つ馬渕由衣という謎の女性が登場する。


『仮面ライダービルド』テレビ本編では、一般市民に関する描写が希薄だった印象だ。
というのは、基本的には各話ごとのゲストキャラを用意することなく、主要登場人物を中心に筋運びが行われてきたからだ。
ライダーたちは「ラブ&ピース」を掲げているのにもかかわらず、一般市民との接点がないまま戦い続けていた。
それは決して悪いことではないが、やはり「戦争」を描いている以上、巻き込まれた一般市民の視点を望む視聴者も多かったはずだ。


よって、今作で由衣というゲストキャラを通して一般市民の視点を取り入れたのは妥当に思えた
由衣を、テレビ本編初期の戦争に巻き込まれた人物にすることで、被害を被った一般市民が間違いなくいたことが強調された。
そういう意味では、今作はテレビ本編の補完としてしっかりと機能していた印象だ。


そして、今作の主人公である龍我のテレビ本編中の成長を、戦争中の龍我に遭遇したことがある由衣の視点で描いているのも新しいアプローチだ
自分が信じたり、自分を信じてくれたりする者のために戦っていた頃の龍我はまだ未熟で、「ラブ&ピース」という考えに至っていなかった。
だからこそ、当時の龍我は由衣やその生徒を救うことができなかった (救わなかった) のだろう。
由衣というnascita外の第三者の視点があったからこそ、龍我の一年間の成長がより明確になり、最終的に龍我が辿り着いた「ラブ&ピース」という考えの正当性をより強調している。


今作では割とずっと龍我に対して嫌悪感を抱いていた由衣が、クローズに命を救われると唐突に恋愛感情を抱き始めたことは、一見唐突で利己的な言動に思えるかもしれない。
(たしかに、『劇場版仮面ライダービルド Be The One』で「ビルト殲滅計画」と称してビルドを排除しようとしていた一般市民が、テレビ本編の『48話 ラブ&ピースの世界へ』でエボルトが地球壊滅を目論んでいたことが判明してから都合よく手のひら返しをした通り、『仮面ライダービルド』では一般市民が非常に利己的で自己中心的な性格であることが多く、製作者側が一般市民を「愚かな人間」として意図的に描いていることは見て分かる。)
だが、この由衣の見事なまでの手のひら返しを通して、「自分が信じたり、自分を信じてくれたりする者のために戦う」という当初の龍我の考えの否定と、「ラブ&ピース」という成熟した龍我の考えの肯定を非常に分かりやすく表現している。
由衣の手のひら返しがあまりにも唐突に思えてしまったので、その辺はもう少し自然に感じられるように描いてほしかった気持ちもあるが。
どちらにしろ、由衣の登場によって、今作は龍我の成長の集大成として上手く機能していると感じた。


ところで、今作の終盤で、龍我と由衣が「ベストマッチ」であると、幻徳はお得意のTシャツネタで伝える場面がある。
もちろん、幻徳は半分冗談でこのような発言をしたのだろうが、「ベストマッチ」という表現はテレビ本編では一貫して戦兎と龍我の関係性のことを表していたので、龍我と由衣の関係性を今作が「ベストマッチ」と表現したことに驚いた。
加えて、龍我がまんざらでもなさそうな態度を見せていたため、今作単体では、龍我と由衣の「ベストマッチ」が成り立ってしまったかのように思えてしまう。
そう考えると、今作は「俺の相棒は桐生戦兎ただ一人」という最終話に行き着いた結論を覆してしまった、ととらえることもできる。
しかし、「ベストマッチな奴ら」に至るまで一年間戦兎と龍我が一年かけて関係を構築してきた様を見ている視聴者側からすると、たった1時間ちょっとのVシネマで構築した関係で「ベストマッチ」になるのか?という疑問がどうしても浮かんでしまう。


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結論

テレビ本編終了後に製作されるVシネマは、サブキャラクターに焦点を当てることで、テレビ本編では語り切ることができなかった出来事や人物描写を描く「テレビ本編の補完」としての性格が強い。
今作も、龍我のテレビ本編を通しての成長の集大成として、龍我が最終話までに行き着いた「俺の相棒は桐生戦兎ただ一人」「ラブ&ピースを胸に生きていける世界を創る」の考えを再確認する作品であったことから、テレビ本編の補完として見事に機能していた印象だ。
龍我がエボルトと組むことを余儀なくされても、エボルトが「相棒」であることを断固否定したことは、「俺の相棒は桐生戦兎ただ一人」という最終話の台詞を上手く強調している。
また、最大の敵エボルトを復活させるまでして新世界を守りたい戦兎や龍我のスタンスからは、「ラブ&ピース」に対する強い思いが改めて伺えた。


しかし、今作を単体で見ていると、龍我のベストマッチ相手は戦兎だけではないことが明らかになったうえ、エボルトの完全復活により新世界の「ラブ&ピース」も脅かされている状態で終わったため、最終話の結論を覆すストーリーになってしまった。
また、「二人っきりの世界」という最終話のビターエンド状態も変わり、主要登場人物ほぼ全員の記憶が蘇ったことも、最終話を覆したといえるだろう。
そういう意味では、今作は『最終話 ビルドが創る明日』の結末を覆すストーリーになっていると言うことができるだろう
よって、テレビ本編の最終話のエンディングが好きな人であればあるほど、今作のストーリーに不満を抱いてしまうような構造になってしまった


『仮面ライダービルド』のテレビ本編があまりにも綺麗に完結したため、その続きを描くためには一度最終話の結末を覆すことは必然だったと考えることもできる。
一度結末を覆したしたうえで再び納得のいく結末を描けたら良かったものの、今作は最終話をただ覆しただけで終わってしまったため、わざわざ結末を覆したことの意義が見いだせなくなっている。
だが、先日製作が発表された今作の続編『ビルド NEW WORLD 仮面ライダーグリス』で再び綺麗にまとめるために今作は敢えてモヤモヤな結末になったのだと推察することもできる。
そう考えると、今作は恐らく、Vシネマシリーズが完結してからでないと評価しにくいものなのかもしれない。




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