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感想『ターミネーター:ニュー・フェイト』になぜ続編としての意義が見出せなかったのか

ジェームズ・キャメロン監督によって製作された1984年の『ターミネーター』(『T1』) と1991年の『ターミネーター2』(『T2』) は、絶大な人気を博した名作だ。
「文化的、歴史的、芸術的」に重要なフィルムを登録するアメリカ国立フィルム登録簿 (National Film Registry) にも『ターミネーター』が登録されていることから分かる通り、映画史においても非常に重要な作品だ。


そして、『T2』の後にも、2003年に『ターミネーター3』(『T3』)、2009年に『ターミネーター4』(『T4』)、そして2015年に『ターミネーター:再起動/ジェニシス』と、幾多の続編が製作されてきた。
ただ、ジェームズ・キャメロンが製作に携わった『ターミネーター』映画は『T2』が最後で、以後の作品はこれまで全てがキャメロンの関与なしで製作された。
というのも、『ターミネーター』というコンテンツの権利をキャメロン氏が譲渡していたからだ。

Cameron told the Toronto Sun back in 2009, he sold the rights to the original film for $1 to producer Gale Anne Hurd. The stipulation of this agreement was that Cameron would be allowed to direct "The Terminator."

和訳:プロデューサーであるゲイル・アン・ハードに原作映画の権利を1ドルで売っていたことを、キャメロンは2009年にトロント・サンに話した。キャメロンが『ターミネーター』の監督になることがその同意の条件だった。


James Cameron reveals more about what 'Terminator' sequels will explore、和訳は引用者による


ただ、キャメロンの関与なしで製作された『T3』以降の作品はどれも視聴者や評論家による評価がいまいちだった。
2015年の『ターミネーター:再起動/ジェニシス』なんかは新たな三部作の一作目として製作されたものの、興行的・商業的に振るわなかったため、その計画は白紙となった。


そして、2019年に遂に『ターミネーター』の権利はキャメロン氏の元に戻った。
それを機に、キャメロンが製作陣に加わり、ティム・ミラー氏が監督する映画『ターミネータ―:ニュー・フェイト』が「『ターミネーター2』の正統な続編」として製作された。
サラ・コナー役のリンダ・ハミルトンさんや、若き頃のジョン・コナー役のエドワード・ファーロングさんも『T2』ぶりの再演を果たすことが決まり、大きな話題となった。


「『ターミネーター2』の正統な続編」と銘打たれていることから分かる通り、今作は『ターミネーター3』以降に製作された『ターミネーター』を無視して、『T2』の続きを描いている。

『ターミネーター2』以来、ハミルトンは「脚本が魅力的ではない」としてシリーズ続編への出演を断ってきたという。現在もハミルトンは、過去3作品について「忘れてもらってもいいですよ」と笑顔でブラックジョークを飛ばすほどだ。


『ターミネーター:ニュー・フェイト』サラ・コナー役リンダ・ハミルトンが復帰を語る ─ シュワちゃん&監督も歓喜、新キャストや作風の見どころも | THE RIVER


私は決して『T3』以降の作品は嫌いではないが、名作とも言われている『T1』や『T2』を超えることができなかったのもやはり事実だし、続編を作る意義が見いだせなかったのも事実だ。
だからこそ、『ターミネーター:ニュー・フェイト』でキャメロン氏やリンダ・ハミルトンさんらが復活すると聞き、私は今作に結構期待しながら公開初日に観に行った。


果たして、『ターミネーター:ニュー・フェイト』は今度こそ満足のいく『T2』の続編になることができたのか?
『T1』や『T2』が人気を博した理由を考察しながら、『ターミネーター:ニュー・フェイト』の感想を述べていきたい。
正直、今作に関する批判的な意見を見たくない人はこの記事を読まない方がいいかもしれない。


ターミネーター:ニュー・フェイト (字幕版)


この記事には、映画『ターミネーター : ニュー・フェイト』やその他関連作品のネタバレが含まれています。ご注意ください。


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「また戻ってきた」三人

今作の製作が発表されたときに、サラ・コナー役のリンダ・ハミルトンさんや、若き頃のジョン・コナー役のエドワード・ファーロングさんが『T2』以来の再演を果たすことが大きな話題となった。
T-800役のアーノルド・シュワルツェネッガーさんも揃い、今作では『T2』の主要キャストが並び立つこととなった。


やはり、サラ・コナーやジョン・コナー、T-800の存在が『T1』や『T2』の強みだったと私は感じる。
そして、『T2』が続編として魅力的だった理由の一つとして、彼らが『T1』の延長線にいながらも『T1』とは大きく変わった新鮮な描かれ方をされていたからだ


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サラ・コナーは、『T1』ではカイル・リースに守られるウェイトレスだったものの、『T2』では警察病院に収容されて孤独に生きながらも鍛え上げる力強い戦士になっていた。
ジョン・コナーは、『T1』では未来でスカイネットに対抗する人類のリーダーとして描かれたものの、『T2』ではただの頭がいいガキとして登場した。
そして、T-800は、『T1』では未来から来た凶悪な殺人鬼ターミネーターだったものの、『T2』では (『T1』のT-800とは別個体だが) ジョンをT-1000から守る父親的存在として登場した。


『T1』の登場人物たちのキャラクターや物語における立ち位置を『T2』で予想外の方向に持って行ったことで、『T1』で馴染みのある登場人物たちがどうなるのかと観客に期待させてくれた。
こうした工夫のおかげで、観客は新鮮な気持ちで飽きることなく『T2』を観ることができたのだろう。


ジェームズ・キャメロン氏も、映画『アバター』のインタビューで、続編製作におけるそのような工夫の大切さを語っている。

"The key to sequels is that they have to surprise. They have to feel fresh, and sometimes even go against expectation, but at the same time they have to do it in a way that's satisfying and doesn't pull the rug out from under you."

和訳:「続編で重要なのは、驚きを与えることだ。新鮮に感じられる必要があるし、時には期待に反する必要もある。ただ、同時に、観客が裏切られた気分にならないように、満足させるやり方で行われないといけない。」


Avatar sequels are so advanced you can't even IMAGINE what they'll look like, says James Cameron、和訳は引用者による


『ターミネーター:ニュー・フェイト』は、キャメロン氏が述べていたように、たしかに驚きを与えてくれた。


冒頭でジョン・コナーがT-800に命を奪われるシーンは、『ターミネーターシリーズ』を観続けてきた人たちからしたらかなり衝撃的な展開だ。
『T1』と『T2』では、「審判の日」後に人類抵抗軍の指揮官となったジョン・コナーは、未来の”希望”として描かれてきた。
そして、その”希望”を砕くために過去へターミネーターがやってきて、その”希望”を守るために未来からカイル・リースやT-800が送り込まれていたことから、『ターミネーターシリーズ』にとってジョン・コナーがどれほど重要な役割を担っていたのかが分かる。
だからこそ、ジョン・コナーがあれほどあっさりと命を奪われてしまったことは、『T2』の正統な続編である今作の展開としてはかなり衝撃的だ。


ただ、「審判の日」が阻止されて新たな未来へと進むことになった今作において、ジョンは過去作で描かれていたような重要人物ではなくなってしまった。
そう考えると、今作にとってジョンが不必要な存在になってしまい、結果的に冒頭で命を落とすことになってしまったのはある意味腑に落ちる。
米国などではジョンの死について怒っているファンが多いが、私はむしろこの展開に関しては納得してしまった。




そんな息子のジョンを失ったサラ・コナーは、今作では復讐のためにずっとターミネーターを狩り続けていた孤独な母として描かれている。
60代とは思えない貫禄でバズーカを華麗にぶっ放したりアクションシーンをこなしたりしていた姿は誰が見てもカッコいい。
リンダ・ハミルトンさんが今作の撮影に向けて役作りに全力で取り組んできたからこそ、これほどカッコいい戦士として復活できたのだろう。

このようなカッコいい戦士としてのサラ・コナーは、『T2』で我々がお馴染みのサラの姿であり、私含め多くの人のテンションが上がったに違いない。


一方で、『T2』でサラ・コナーは、息子のジョンを守ることを「生きる目的」とし、その目的のために全てを犠牲にしてしまった母親としても描かれていた。
だから、「審判の日」を阻止しながらもジョンのことも失ってしまったサラが、今作では「ジョンのために」ターミネーターに復讐することを「生きる目的」にしていたことは至って自然だと感じた。
やけ酒をして、ジョンの顔を忘れそうだと嘆いてる姿は、『T2』でのサラの息子への愛情を知っていると心が痛くなる。
終始「ジョンのために」行動している点は『T2』から一貫していて、我々が知ってるサラの人物像と一致している。


そんなサラは、今作では、Rev-9を倒すために息子の敵でもあるカールの協力を得るかどうかで葛藤する。
サラにターミネーターが出現する位置を知らせるメッセージを送っていた人が、実は自分の息子の命を奪った人と同一人物であったことが判明するシーンは非常に緊迫感があり、サラの中で何十年間も蓄積されてきた悲しみや怒りが感じられた。
ただ、『T2』でもサラは、T-800に愛するカイル・リースの命を奪われたことから、同じT-800であるボブおじさんの協力を得るかどうかで葛藤していた。
そう考えると、今作のこの展開にもあまり新鮮味はなく、サラ・コナーは『T2』と似たような試練を乗り越えさせられていたように感じてしまった




今作でアーノルド・シュワルツェネッガーさんが演じるのは、ジョンの命を奪い、その後人間と関わっていくなかで良心が芽生え、家族まで築いて「カール」としてカーテンを売りながらひっそりと生きるようになったT-800だ。
そして、カールはダニーやサラに協力し、Rev-9を倒して未来を救うために身を犠牲にする。


『T2』でも自我に目覚めたT-800が身を犠牲にする展開があるものの、今作では『T2』とは異なる過程でT-800が自我に目覚めている点では、割と新鮮味がある。
『T2』では、「ジョンを守る」ために過去に送られてきたT-800 (ボブおじさん) が、ジョンらと触れ合っていくなかで人間の感情を学習して、自我が芽生える。
そして、誰かの命令に従って行動する存在として設計されたはずのボブおじさんが、初めて自分の意思で決断を下し、ジョンの命令に反して自身を溶鉱炉に沈ませることで未来を守る。
一方で、今作では、スカイネットに指示された命令を完遂したことで目的を失ってしまったカールが、人間と触れていくなかで自分の意思に基づいた目的を得る。
このように、過去作で扱われてきた「命の価値」や「愛情」といったテーマのほかに、今作ではカールを通して「生きる目的」の大切さといった新たな切り口で人間性を描こうとしていたのが見て取れる


ただ、カールが「生きる目的」を学ぶ描写が非常にあっさりとしていたのが非常に残念だ。
カールが初めて登場するシーンで、カールが口頭でその過程を説明したのみで、我々がカールの変化に納得できるような視覚的情報がない。
結局、せっかくの新鮮な題材が中途半端に描かれて、説得力がないまま終わってしまった印象だ




ジョンが映画の冒頭で命を落とすという衝撃的な事件の後、大きく影響を受けてしまったサラやT-800を今作は描いている。
ただ、その描き方に過去作との類似点が非常に多く見受けられたため、物語としての新鮮味があまりなかった。
よって、今作にはジョンの命を奪うという挑戦をする勇気があったものの、その挑戦によってもたらされた物語が過去作の二番煎じに思えたため新鮮味に欠けたという印象を受けた。


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最恐ではなく最強のRev-9

『T1』や『T2』 が名作と呼ばれるほど人気を博すことができたのは、そのホラー調な作風にあると私は考える。
追いかけてくる殺人鬼から逃げ続ける展開は、スラッシャー映画でよく見られ、『ターミネーターシリーズ』の基本構成でもある。
最初の二作を監督したキャメロン氏も、スラッシャー映画に影響を受けたことを以下のインタビューで述べている。

"My contemporaries were all doing slasher-horror movies," Cameron once said. "John Carpenter was the guy I idolised the most. He made Halloween for $30,000 or something. That was everyone's break-in dream, to do a stylish horror movie. It was a very slasher film type image. And it really was the launching pad for the story."

和訳:「当時の私はスラッシャー・ホラー映画を作りたかった。私はジョン・カーペンターに最も憧れていた。彼は『ハロウィーン』を3万ドルくらいで製作した。彼のようにスタイリッシュなホラー映画をデビュー作で製作することはみんなの夢だった。それはとてもスラッシャー映画のようなイメージだった。そしてそれが物語の発射台となった。


Why The Terminator is a horror classic | Den of Geek、和訳は引用者による


特に『T1』には、スラッシャー映画の影響が随所にちりばめられている。

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ゆっくりと迫りくる、無表情・無口で無慈悲な殺人鬼のT-800。
その殺人鬼が「サラ・コナー」という名の女の子を電話帳で探し出し、一人ずつ探し出しては命を奪っていく。
”最後の女性”となった (未来のジョン・コナーの母となる) サラ・コナーは、T-800に追いかけられる。
T-800は何度撃たれてもしつこく生き続け、ゾンビの如くサラの命を狙い続ける。
市民を守る存在である警察もあてにならないため、サラはただただ逃げ続けるしかない。
このような筋運びは、正にスラッシャー映画のそれで、『T1』自体もそれを反映した割とトーンの作品だ。


二作目の『T2』は、スラッシャー映画としての性質こそはあまりなかったものの、「追いかける殺人鬼から逃げ続ける」といった基本構成はしっかりと残っている。
一方で、『T1』との差別化を図るために、敵のターミネーターであるT-1000にはT-800とは異なる特徴が付与された。
『T1』のT-800は、時には警察署に車で突っ込んでしまうほど人前に堂々と現れて、拳銃で目標の命を奪った。
それに対して、『T2』のT-1000は、人間に擬態したり、床に同化して潜んだりすることで目標に近づき、自由自在に生み出すことができるナイフや剣を模した固形で至近距離で命を奪うこともできた。
同じ「ターミネーター」でありながらもこういった違いを作ったことで、T-1000を予測不能で新鮮な敵として描き、続編の『T2』でも引き続き観客に恐怖を抱かせることに成功した。




そして、今作も「追いかける殺人鬼から逃げ続ける」といった『ターミネーターシリーズ』の基本構成を維持した。
今作では、Rev-9といった、T-シリーズとは異なる未来から来たターミネーターが、ダニーのことを追いかけた。


しかし、Rev-9が持つ能力はどれも我々が既に過去の『ターミネーター』作品で見たことがあるものばかりだったため、新鮮味がなかった。
まず、金属骨格を持ちながら液体金属でもあるRev-9の二重構造は、T-800とT-1000の能力を掛け合わせたに過ぎない。
しかも、金属骨格と液体金属のハイブリッド型ターミネーターは既に『T3』のT-Xといった前例がある。
また、Rev-9は車に追いつくことができるほどのスピードで走る能力や、監視カメラの映像からダニーたちの居場所を特定する知能なども、T-Xで見たことがある特徴だ。
このように、Rev-9の能力にオリジナリティがあまりないからか、ターミネーターの行動が予測不能ではなくなり、観客は恐怖を抱きにくかった


Rev-9がターミネーターとして進化しすぎていた点も、我々がRev-9に恐怖を抱けなかった一つの要因だと私は考える。
まだロボットのようなぎこちなさがあったT-800やT-1000とは違い、Rev-9は人間のような自然な表情を見せたり、時にはジョークを言ったりすることもできた。
だからこそ、T-800やT-1000のような不気味さがあまりなく、Rev-9はただただ強力な敵としてダニーの前に立ちはだかった。
敵に様々な能力を付与して進化させることは、必ずしもいいことであるとは限らないのかもしれない。

変えられない運命

今作は、『T2』でサラたちがスカイネットの誕生と「審判の日」を阻止した後の物語を描いている。
ただ、今度は未来でレギオンという名のAIが覚醒して人類の存続を脅かしている。


『T1』と『T2』では、人類抵抗軍を率いるリーダーであるジョン・コナーを排除するためにターミネーターが過去へと送られ、そのターミネーターの標的となった人物 (『T1』ではサラ、『T2』ではジョン) を守るために、人類抵抗軍により別の存在 (『T1』ではカイル・リース、『T2』ではT-800) が未来から送られた。
『T1』と『T2』はたしかに基本的な筋運びは一緒だが、『T2』は『T1』とは異なる結末を描くことで新鮮味を与えた。
『T1』では、未来からやってきたカイル・リースとサラ・コナーが恋に落ち、一夜を共に過ごしたことでサラがジョン・コナーを孕む、という、「審判の日」といった予定通りの未来に向けて物事が進んで行った。
それと打って変わって『T2』では、未来からやってきたT-800とジョン・コナーが、ターミネーターと人間という仲でありながら信頼関係を築き上げていき、最終的には「審判の日」を阻止して未来を変えることに成功した。
『T1』では未来を変えられなかったからこそ、『T2』における「未来は変えられる。 運命なんてものはない。自ら作り上げるものだ。」という結末にカタルシスがあり、面白かったのだ。


一方で、今作では「審判の日」が阻止されても結局レギオンという新たな脅威が再び生まれたことから、どれほど未来を変えても地獄のような「運命」は変えられない、といった絶望的な事実を突きつけてきた。
それと同時に、たとえジョン・コナーがいなくても、人類の”希望”となる誰かが人類抵抗軍を結成してその地獄の中で抗うのも、また変えられない「運命」であることも描かれている。
つまり、今作の解釈では、「運命」というものは存在するのだ。


このような「未来を変えても運命は変えられない」といった切り口は、『ターミネーターシリーズ』の復活のために製作陣が考え出した一つの「解」なのかもしれない。
その根拠として、ジェームズ・キャメロン氏は、今作を三部作になり得るストーリーの始まりにしたい、という構想を明かしている。

このように『ターミネーターシリーズ』のこの時代での存続のためには、新たな中心人物らを配置して、ジョン・コナーやサラ・コナー、T-800から脱却する必要があった。
これは『スター・ウォーズ』の新三部作に近しいアプローチで、過去に人気を博したシリーズを復活するために昨今のハリウッド映画で割と使われている手法だ。


そして、この手法は「シリーズの復活」を目的にするのであれば、たしかに有効な手段だ。
ただ、『ターミネーターシリーズ』は基本的にはどの作品も同じ基本構造を持ったシリーズなので、「未来を変えても運命は変えられない」ことを描くだけでは、同じ作品が量産されるだけだ。
中心人物を魅力的に描いたり、展開にひねりを加えたりしないと、ただのリメイクになってしまう。


ただ、今作で新たな物語の中心人物として登場した二人の女性は、とても魅力的に描かれていたとは思えない。
一人は、Rev-9に狙われている工場勤務の女、ダニー・ラモス。
そしてもう一人は、Rev-9からダニーを守るために未来から来た強化人間、グレースだ。
この二人のキャラクターに特徴は特になく、正直応援したくなるほど掘り下げられなかった印象だ。
また、グレースが強化人間であるのも、人類抵抗軍にいた『T1』のカイル・リースと、ターミネーターの力でジョンたちを守り抜いた『T2』のT-800のいいとこどりをしようとしたようにしか思えなかった。


一方で、実は人類抵抗軍のリーダーになるのはダニーの息子ではなくてダニー自身である、という事実を中盤で明かすことで、今作は従来の『ターミネーターシリーズ』の展開にひねりを加えようとしたようにも思える。
映画にフェミニズムやダイバーシティを取り入れる動きが昨今加速している中、「ダニー自身が大事なのではなく、ダニーの子宮が大事だから守られている」と言った趣旨の発言をサラが放った時点でこのような展開が大体予測できた。
そういった現代の潮流を知っていると、この展開は今作が狙っていたほどの「衝撃の展開」にはなっていなかった。
とはいえ、『ターミネーターシリーズ』の従来の基本構造に現代の感覚に合わせた新たな要素を加えようとした点では、シリーズ全体を俯瞰してみれば結構新鮮な展開だったと言えよう。


今回明かされた「新たな未来」に関しては、これくらいしか新鮮な展開としてはなかった。
それ以外は、基本的には『T1』で確立された基本構造に新たな中心人物を当てはめただけのように思えた。
なので、今作の「運命は変えられない」という主張は、過去作と同じような展開を別の登場人物を用いて何度も再現するための免罪符として出しただけのように思えてしまった
たしかに、新たな中心人物を配置して物語を描くのは、シリーズ復活の手段としては有効だ。
だが、オリジナリティが少ないと、作品としての魅力がどうしてもなくなってしまうし、そもそもシリーズを復活させた意義すらも問われてしまう。


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結論

『T1』と『T2』は、同じ基本構造に則って製作されている。
AIが未来で反乱を起こし、その反乱を止めるために人類抵抗軍が結成され、そのリーダーを排除するためにターミネーターが過去に送られ、そのターミネーターの標的となった人物を守るために送られてきた存在が標的と一緒に過去で逃亡する… といった構造だ。
ただ、『T2』で飽きることがなかったのは、続編としての「新鮮さ」を提供したからだ。
『T1』から大きく変わった登場人物たちのキャラクターや状況、『T1』のT-800とは違った性質の敵ターミネーター、そして『T1』とは違って「審判の日」を阻止した結末… などがその「新鮮さ」だ。
だからこそ、『T2』は続編として成功し、一部では「『T1』以上」とまで言われるほどの名作になったのだ。


一方で、今作は残念ながらそのような「新鮮さ」をあまり提供してくれていない。
ジョン・コナーが命を落としたり、ダニーが人類抵抗軍のリーダーだったりと、「挑戦」を試みた惜しい部分もたしかにあった。
だが、最終的にはノスタルジーに打ち勝てず、『T1』や『T2』とは同じような展開、設定、キャラクターで物語を進めてしまった印象だ
オリジナリティがないノスタルジー頼みの映画は、たとえ公開時に人気を博しても、数年後には忘れ去られてしまっているだろう。
今作の興行成績を見ていると、そもそも続編が製作されるかどうかも怪しいので、もしかしたら今作の『ターミネーターシリーズ』復活に向けた努力も無意味だったのかもしれない。
せっかくの待望の「『ターミネーター2』の正統な続編」だっただけに、非常に残念だ。




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